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第百二十五話
列車は実家の駅に着いたが知り合いは誰もいない。当たり前だ当然みんな仕事に行ってる時間帯だ。独り列車を降りて実家へ向かったが、実家を通り越して直ぐ近くの紗和子の家に着いた。家族は出払っていても、多分彼女は九分九厘家に居るはずや、と呼び鈴を押した。インターン越しに彼女の声がした。波多野が名前を告げると忙しなく戸が開き、どないしたんと先ず訊ねられた。返事を躊躇うと紗和子は直ぐに中へ招き入れてくれた。
昔は良く此の家に上げて貰った。それももう随分と昔やった。それが最後になったのは小学生の頃やったなあ。それを入りながら言うと、紗和子は懐かしいそうに、そうねと言って淋しく笑った。
居間の座卓に座布団を出してくれた。ゆっくり座ると急須に茶葉とポットのお湯を淹れてお茶を出してくれた。波多野は一口飲むと昨夜は榊原から言われた、と言いながら湯飲み茶碗を置いた。紗和子も両手で受けて飲んでいた湯飲み茶碗を静かに置いた。
「あの人何を言わはったん」
「一緒に呑みに行かんかて誘われて」
「うちが実家に帰ったさかい羽を伸ばさはったんやねえ」
「それで彼奴が偉い酔い潰れてしもてなあ、珍しいこっちゃ。そこで紗和子が子供が出来たから実家に報告するって言うから、そんなん電話でええやろうって言うたら、色々と問題になって、それで直接聞きに来たんやけど」
紗和子は急に笑って嘘やと言い出した。
「そんなことで療治さんがなんぼ人が良くても仕事ほっぽり出して来るわけがないやろう」
あの人からどんなことを聞いたか問い詰められたが、とにかくもう酔い潰れてそれどころやなかった。でもみぎわから色々と聞かされた」
俺の知らん紗和子までみぎわが知ってるのはどう言うこっちゃと逆に問い詰めた。
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