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第百二十七話
そう謂えばみぎわと付き合い始めた頃はそんな喋り方だった。それは今も変わらないが慣れと謂うのは恐ろしい。紗和子に言われるまでは全く気にしていなかったからだ。喋り方に高揚がなく穏やかに言い揃える。しかも語尾は柔らかく包み込むように静かに吸収させるような話し方だった。あのように喋られると何のわだかまりもなく言いやすかった。それで紗和子は益々思っていることを洗いざらい喋った。みぎわもそれに応えて話の遣り取りすれば、お互いの気持ちが深まるのに、そう時間は掛からなかったのかも知れない。要するに波多野は怠慢だったに過ぎない、と今更ながら思い知らされた。
室屋の場合はそれほどでもない処を見ると、それでも相性と云う物が有るんだろう。
「たしかあの日は祭り見物のあとは西陣の織物会館に十二単の着付け体験に行ったそうやなあ」
みぎわから言われた謂いにくい課題はどうしても後回しになる。それでも榊原よりは積極性があると自負するところが、波多野自身の成長の妨げかもしれない。これは時々みぎわに指摘されて、余り気分が良いものではなかった。
「俺は、みぎわからあの日のことは余り聞けなかったが、それでどやった?」
「ええ、ちょっとの時間やけど平安貴族のお姫さまに成りきれてよかった。けれどあんなん着て歩けへんって言うたら着付けをしてくれた人に、そりゃあそうやてお姫さまの周りには侍女が何人も付いていてはるから何にもせんでええんやと笑われた」
でもみぎわさんが着るとほんまに御姫さんに見える。だから療治さんが気に入るのも無理もないと言われると言葉に詰まってしまった。それに追い討ちを掛けるように紗和子は「それで色々話す内に療治さんのことも訊いてみた」
と言われると波多野は更にウッと息を詰まらせた。
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