第百二十八話

1/1
前へ
/132ページ
次へ

第百二十八話

「どんなことや」  フフフと笑って聞きたい、と言うから。こんな態度を紗和子が見せたのは初めてだから波多野は戸惑った。するとみぎわさんは(たま)にこんな風に()らすことがあるんよ。勿論悪気はこれっぽっちも感じられへんから、思わず身を乗り出してしまう。丁度今の療治さんのようにと言われ、思い返してみても心当たりがなかった。それで再び「どんなことや」と急かした。 「あの人のどんなところが良いんですかって。そしたら」  そしたらどう言ったんやと波多野は慌てた。それを見て紗和子は少し笑った。こんな紗和子も初めてだ。と同時にこれ程の影響を与えたみぎわと謂う女性の計り知れなく奥深い魅力にも初めて気付かされた。 「そしたらみぎわさんは」 「う〜ン、どないしたんや」  と身を乗り出してしまう処を押さえて、しっかり耳だけ(そばだ)てた。 「みぎわさんはなんちゅうか、考えがしっかりした人や」  それは今更紗和子から聴かんでも分かっていたことだ。 「どうしっかりしてるんや」 「そやなあ、今一緒に居る榊原さんの事やけど」  ゲ、先を越されたのかと波多野は身構えた。 「あの人ほど紗和子さんにお似合いの人はいなっいって。それはあたしが療治さんと付き合ってみて分かった。あの気難しい人では紗和子さんは置いて行かれるだけで何にもしてくれへんよと言われて、でもみぎわさんはそれでも構わへんのそれでええの」  と訊いたらそれが恋や、て謂われてしもた。だからみんな人それぞれで恋が(ちご)て普通なんや、当たり前なんやと言われた。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加