第百三十話・恋ってどうってことないさ

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第百三十話・恋ってどうってことないさ

 そもそも恋って何だと謂う原点に立てば、紗和子は幼馴染みの人であり、そこから少しも逸脱していない。しかし紗和子がそれ以上の眼差しを寄せていたのには気が付いていた。一方で榊原は真剣に恋する相手として紗和子を捉えている。ならば此の二人をどうにかしてやりたいと思うのが、二人をよく知る波多野の人情である。同じような出来事が牧野と室屋にも生じてくれれば良いとみぎわから聞かされた。だから室屋と牧野は当てはまりそうだと確信して二人の仲を取り持った。こちらの方はまだ日が浅いから、成り行きは予断を許さないが、好転はしている。それに比較すると榊原と紗和子は、高校時代からの付き合いだから、お互いの気心は知れ渡っているだろうと思ったがそうでもないらしい。 「どう純粋に見ていたんだ」  と反応が知りたくてちょっと意地悪な質問を打っ付けてみた。昔の紗和子なら聞くことさえ躊躇(ためら)ったが、みぎわから吸収したものがどんなものか知りたくなったのだ。 「療治さんは面倒見がいいさかい、途中で投げ出したりせんとトコトン見てくれはる人やと思ってた。榊原さんにもそやったし、大学の友達にもそうやったから」  どうやら牧野の事もみぎわは話したようだ。
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