第二話

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第二話

 法要が終わり仕出しの懐石が振る舞われた。一時間ほどで親戚達が帰りがけに「どうして一緒に並ばないんだ」と新婚の紗和子は冷やかされた。あんな親戚一同の席に一緒に出れば新婚は好奇の眼で見られると辞退したと言えば、でもまだ半年なら一緒に並んでも良いと言われてしまった。  そんな紗和子も波多野療治にはやっかみ半分に突っ込んでくる。 「毎年帰って来るのに去年の夏は帰ってこなかったのね、いい人が出来たの」   半年前には今、付き合ってる彼女と一緒に帰省するつもりだったが結局はひとりで帰省した。  矢張り紗和子の目が気になったからだ。一回生の時に別の彼女を連れて来てひと騒動した。それに懲りて今、付き合ってる彼女は連れて来なかった。それは紗和子は療治の過去を全て知っている女だけに、連れてくると直ぐに突っ込まれるからだ。  最初に彼女を連れて来た時に、度肝を抜かされたのは、紗和子の太々(ふてぶて)しい態度だった。あの時は初対面の俺の自称女友達に紗和子はアッケラカンとして名乗った。勿論、俺の友達だと言う女の前で紗和子は、幼馴染みとして昔からよく知った仲だと、ヌケヌケと公表してはばからなかった。どういう心境なのか察しきれないが、いつもの一癖有る態度だが悪気はないらしく、角張らずにざっくばらんな処がある。それで自然と思ったことが出るようだ。その歯に衣着せぬ言い方が紗和子の性格を表していた。それが周りからも一目置かれるしっかり者として好感を抱かれているから、波多野も口まで出掛かった文句を、喉につかえさせた女でもある。 「今回は一人で帰って来たのね何かあったの」  さっき言ったのにひつこい女だ。そして人聞きの悪いことを平気で言う処が、波多野には紗和子と結婚を躊躇(ためら)う理由だが、そこが憎めないのも彼女の役得だろう。それを知ってか知らずか相変わらず口も達者だ。  そこに榊原も帰り支度を終えてやって来て、よおーと気軽に話し掛けて来る。そして俺はもう直ぐ転勤するぞっと言ってきた。高卒で入社してこの春で四年目になるがそれで支店長って言う訳は無いよなと思った。 「波多野君もあの街で就職が決まったようだからあたしもこの町を出たいからと頼んだの」  と紗和子に言われて、どうやら会社がそのままの身分で転勤を認めたようだ。この場合は矢張りおめでとうだろうと率直に言ってやった。
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