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「え、これ……おにいちゃんの? えっ、この会社って、超大手のIT企業じゃ……!?」
「おまえ……俺の就職祝いにみんなで寿司食ったの忘れたのかよ。つーか勝手に無職にするな、今もちゃんと働いてるわ」
「えええっ!? で、でもおにいちゃん、ここのところ会社行ってないし……」
「リモートで仕事してんだよ。会社に行くのは月に二回くらいだし、おまえは昼間大学行ってるから知らないだけだろ」
本当に俺に興味ないんだな、とちょっと怒った口ぶりでつぶやくおにいちゃんに「ごめんなさい……」と謝ると、彼は深く嘆息してから再び距離を詰めて問いかけてくる。
「おまえ、俺が普段家で何してると思ってたんだよ」
「え……か、会社クビになっちゃって、ショックで引きこもってるんだと……」
「……なんだよそれ。俺、これでも一応エリートなんだけど?」
「本当のエリートはそんなこと言わないもん」
「急にまともなこと言うな、バカチンが」
戸惑いながらもそう返すと、軽くデコピンをされる。お互い裸のままそんなやり取りをしているうちに、なんだかおかしくなってわたしはふふっと笑みをこぼした。おにいちゃんも、どことなく穏やかな笑みを浮かべている。
「とにかく。おまえは晴れてクズ男と別れたし、今日から俺の婚約者だからな。顔がタイプだからって他の男についていくなよ」
「い、いかないよっ!」
「ふうん? まあ、その言葉を信じてやる。それから」
瞳にわたしだけを映したおにいちゃんの顔が目の前まで迫ってくる。自然と目をつぶると、唇にそっと優しい口づけが落とされた。
「……とりあえず、『おにいちゃん』は今日で終わりな」
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