隣のおにいちゃん

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隣のおにいちゃん

「おにいちゃんっ、聞いてよ! シンくんまた浮気してたんだけどー!!」  部屋に入るなりそう叫んだわたしは、だるそうにPC画面に向かっているこの部屋の主にうわーんっと思いきり泣きついた。いきなり泣きつかれたおにいちゃんは、一瞬驚いた顔をしたあと「やっぱりなあ」と呆れたように呟く。 「だから言っただろ、一度浮気した男はどうせまたすぐ浮気するって」 「で、でもシンくん、前のとき、もう絶対浮気しないって泣きながら謝ってくれたのに……っ」 「はいはい、それにコロッと騙されたわけね。んなもんその場しのぎの嘘泣きに決まってんだろ。ほんとバッカだなあ、おまえ」  しくしくと泣くわたしを慰めるどころか、おにいちゃんは面倒臭そうにあくびをしながらそう吐き捨てた。口が悪いところは昔から変わっていないが、なんだかんだ言いつつわたしを部屋から追い出そうとしない優しいところも変わっていない。  この「おにいちゃん」は、わたしの「お兄ちゃん」ではない。わたしの幼馴染であり親友でもあるアイリのお兄ちゃんだ。  家がすぐ隣ということもあって、アイリとおにいちゃんとわたしは幼い頃からずっと兄妹のように過ごしてきた。親同士も仲が良いから、小さい頃はしょっちゅう家族ぐるみで旅行をしたり庭でバーベキューをしたりしていた。  わたしが体育の授業中にすっ転んで怪我をしたときなんかは、仕事の都合で連絡がつかなかった両親に代わって、当時大学生だったおにいちゃんが自転車を飛ばして学校まで迎えに来てくれたことだってある。互いの家を自分の家のごとく頻繁に行き来するような、親戚よりも濃い関係を築いているのだ。  それはアイリが県外の大学に進学するため家を離れてしまった今でも変わることはなく、わたしは今日も自分の家より先にアイリの家に向かい、毎日部屋で暇そうにしているおにいちゃん――たぶん会社をクビになったんだと思う――に話を聞いてもらいに来たというわけだ。
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