⑭こんなの、ずるい

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「宇沙ちゃん? 気に入らなかった?」  木佐さんが眉を寄せたので、慌てて表情を取り繕う。  せっかく用意してくれたのに、申し訳ないと思った。 「いいえ! びっくりしただけです。すごく綺麗でかわいいです。ありがとうございます」  そう言ったのに、木佐さんはなぜかためらう素振りで窺うように私を見つめた。  めずらしく自信なさげな顔をしている。 「あのさ~、あとに残るものもあるんだけど?」 「え?」  木佐さんは私の手を取ると、小さな箱を乗せた。    思わずしげしげと彼と箱を交互に見つめてしまう。 「優秀な俺は抜かりがないんです。ね、開けてみて」  笑って言った木佐さんの顔はいつもの余裕を取り戻していて、さっきの表情は気のせいかもと思った。 (そっか。さすが営業部のエース。こういう気づかいが売上トップを保つ秘訣なのね)  妙に納得して箱を開けると、ムーンストーンのペンダントが出てきた。  カボションカットのコロンと丸い形がかわいらしい。 「誕生石がガーネットだって知ってるんだけど、こっちのほうが宇沙ちゃんに似合うかなと思って」 (私を想って選んでくれたの?)  うれしくて、でも、どうしてという思いもあり、にっこり笑う木佐さんを見つめる。 「こんな高そうなものもらえません……」 「君がもらってくれなかったら、誰がもらってくれるんだよ」 「いくらでもほしがる人はいるでしょ?」 「これは君のために買ったのに。君がつけてくれないなら……仕方ない。俺がつけるよ」  木佐さんはペンダントを取り上げ、自分の首に巻きつけた。でも、鎖が足りなくて、喉に食い込んでいる。 「ふふっ。やだ、なにやってるんですか、木佐さん」  精悍な木佐さんの首にミスマッチなかわいいムーンストーンを見て、思わず噴き出した。   「ようやく笑ってくれたね。ほら、俺は付けられないから、宇沙ちゃんが付けて」  木佐さんが私の首もとに手を回し、ペンダントを付けてくれる。  私にはちょうどいい長さで、ムーンストーンはタートルネックの下にすんなり納まった。 「うん、やっぱり似合う」  満足げに木佐さんが目を細めた。 (あぁ、もうだめだ)  その笑顔を見ていると胸に重しが乗ってるように苦しくなって、視線を落とす。 (もうだめだ。これ以上は耐えられない……)  胸が痛くて苦しくて、この想いを開放したくなった。   (将司さんが好きと言ってたくせに、もう心変わりしたなんて、あきれられるかしら?)  それでも、私はもう気持ちを抑えきれなかった。  私は意を決して顔を上げた。木佐さんの目を見て、口を開く。 「木佐さん、私……」  彼は優しい表情で聞いてくれている。  そんな目で見られると勇気がくじけそうになる。  でも、言わなきゃ。ちゃんとしたい。 「私、石原係長と別れたんです。だから……」  私は好きになってしまった人の顔を見つめた。  木佐さんは片眉を上げて驚きは示したけれど、私の言葉を待ってくれている。 「だから、この関係を終わりにしてください」
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