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「なんでもしますから、お願いします!」
どうにか噂が広まらないように必死に頼み込むと、「なんでも?」と少し首を傾げて、木佐さんは笑みを深めた。
嫌な予感がして前言を撤回する前に、スルリと肩に腕を回され、引き寄せられた。
「話が早いね」
楽しげに木佐さんは言うと、私の肩を抱いたまま、さっき出てきたばかりの自動ドアへと向かった。
(えっ!)
驚いて立ち止まろうとした私に、木佐さんはすっと顔を近づけてきて、耳もとでささやいた。
「なんでもしてくれるんでしょ?」
サーッと血の気が引いたけど、『なんでも』とはそういうことだと観念する。
部屋の写真が並んだパネルを見て、「ここでいい?」と聞いた木佐さんは鍵を取り上げると、私をエレベーターに誘導した。
着いた部屋は先ほどまで将司さんと過ごしたものとほぼ同じで、真っ白い壁にローベッド、真っ白なシーツに、ピンク紫のクッションが並べてある。ベッドの下の薄い紫の間接照明も一緒で、相手だけが違う状況に頭がくらくらする。
私をベッドに座らせた木佐さんはほがらかに言った。
「宇沙ちゃんはシャワーを浴びたばかりだよね? 俺も浴びてくるから、服、脱いで待ってて」
将司さんとの睦言を指摘されたようで、カッと頬が熱くなる。しかも、脱いでって……。
無言の抗議に気づいたみたいで、木佐さんがにっこり笑った。
「もちろん、俺に脱がされたいなら、そのままでいいよ?」
「!」
思わず、睨むと、ハハハと楽しそうに笑いながら、木佐さんはお風呂場に行った。
ほどなく水音が聞こえた。
(どうしよう?)
自分から脱いで待ってるなんて、できるはずがない。でも、脱がないと脱がせてほしいと思われる。それも嫌だ。
男の人だから、すぐにお風呂から出てくるだろう。
私はとりあえず着たままだったコートを脱いだ。
セーターも脱ぐ。
スカートもシワになると嫌なので脱いだ。
すると、タイツ姿が間抜けに思い、それも脱ぐ。
キャミソールとブラとショーツだけになった。
(これも脱ぐの?)
素っ裸になって、やる気満々だと木佐さんに思われるのも腹が立つ。
(だいたい、あんな人だとは思わなかった)
会社一モテるのに、女の子なんて選び放題のはずなのに、なんで私に手を出そうと思ったんだろう?
好き勝手できる相手が欲しかったのかな?
前に困っていたところを助けられたことがあって、好感を持っていた相手だけに失望感がすごい。
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