⑦こんなのよくない

2/2
前へ
/70ページ
次へ
 寝ぼけてた木佐さんが悪いのよとにらむと、彼はきまり悪そうに髪を掻き上げた。 「そうだったんだ? 朝弱くてさ」  そうした仕草もさわやかで、あんな変態な人とはとても思えない。  営業部の階に着いて、木佐さんは「また連絡するね」とささやいて、去っていった。 (『また』……)  やっぱり一度では終わらないようで、私は覚悟するように目をつぶった。    その週はそれ以来、木佐さんに会わなかったし、連絡も来なかったのに、週末に呼び出されて、一緒に食事をとった後、また彼の家に連れ込まれた。 「葵、今日はやけに感度がいいんだね」  将司さんに言われて、ハッとした。    いつものホテルでお互いシャワーを浴びて、ベッドで抱き合った。  将司さんが足りなかった私は、彼に身体をぺっとりくっつけた。  顎をすくい上げられ、キスされる。 (木佐さんとしてないのはキスだけだわ……)    押し倒されて、バスローブの上から胸を揉まれた。  将司さんの手が下半身をまさぐって、ショーツの中に入ってきたとき、すでに濡れているのがわかったみたいで含み笑いをされる。  木佐さんの愛撫のせいで、感じやすくなっていたようで、いたたまれない気持ちになった。   (奥さんを裏切っている将司さんに、将司さんを裏切っている私……)  こんなの、よくない。  愛撫されながら、痛切に思った。    ショーツを取り去り、中をほぐすと、将司さんが入ってくる。  どうしても木佐さんと比べてしまう自分が嫌だ。  いつものように事を終えると、またシャワーを浴びて、身づくろいし、ホテルを出た。 「それじゃあ、お疲れさま、宇沙見さん」 「お疲れ様です。また来週」  将司さんはいつもの係長の顔に戻って、手を上げた。  彼の去っていく後ろ姿を見つめていたら、腰に手を回された。 「いつも同じ時間なんだね」  艶っぽい声が耳もとで響き、振り向くと、にっこり笑う顔があった。   「木佐さん!」 「じゃあ、行こっか」  腰を持たれて、彼の家まで誘導された。  
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3644人が本棚に入れています
本棚に追加