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「なんなの? その暗い空気は?」
「は……話しかけないで。そして、私の屍を超えて行け」
そう言うと、桐原 乃々香は、かろうじて取れた席で突っ伏した。
田辺 翠、成澤 志帆は顔を見合わせて肩を竦める。
12時過ぎの学食は学生たちで混み合っている。
「食べないで突っ伏してたら迷惑だよ、乃々香。起きな!」
姉御肌の翠が、乃々香の腕を掴む。
「ぅう、大学には落ち込む場所もない〜」
「落ち込んでないで、次に向え、次に」
リクルートスーツを着た3人は、私立東千大学四年生。
遅れ馳せながらの就活生だった。
翠は外資系メーカーからの結果を待ちながら、より高みを求めて数社にエントリーシートを提出している。お嬢様然としている志帆は、化粧品メーカーの内定は貰っているけれど、本命は教員。十月末の教員試験二次発表を待っている状態で三人の内、就活は頭一つリード。
四年生になってから就活、などとのんびり構えていた乃々香は、友人や仲間たちが続々と内定が決めていく様子に、漸く焦り始めた。
就活試験に落ち続け、本日一社更新。
自分でも驚愕の20社目。
エントリーシートすら門前払いされる事も数件。
就活は、遅々として進まなかった。
「あぁ、就活ってメンタルやられる……」
乃々香の呟きに、翠と志帆は頷いた。
「まぁ、見なよ。うちの大学だけでもこんなに人数がいる訳だ。それが全国区なんだから、就活が厳しいのも当たり前さ」
「乃々香は肝心なところで、コミュ症発揮するクセがあるからねぇ」
何よ、二人だってと乃々香は心の中で思ったが、就活では二人の方が進んでいるので、文句の言いようもなく、モゴモゴと口ごもる。
財布から入れたはずの500円玉を取り出そうと、ポケットに手をいれる。
500円玉が見当たらない。
ゴソゴソ探してもない。どこかで落としたようだ。
空っぽのポケットにガッカリして、乃々香は再び机に突っ伏した。
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