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電話番
ゴリラ、ゴリラ、オラウータン、猿、ゴリラ、ゴリラ、マントヒヒ、ゴリラ。
朝礼で紹介された従業員の人達は、全て猿系の男性だった。
見事なまでの筋肉の壁。私は、巨大な宇宙人の集団に囲まれた気分だった。広い事務所内は、筋肉で満たされた。室内温度は外気より高い気がする。
「じゃあ、教えた通りに、テキトーに聞き流せ。良いか、わかんねーならそれでいい。俺は現場で電話にでれねーから、くれぐれも適当にやっておけ」
私は、適当ほど難しいことは無いと、今とても感じていた。
ただ、もうやってみるしかない。
はい、と頷いてトラックで去って行く皆さんを見送った。
一日目、二日目、私は苦情の電話に丁寧に謝り続け、名乗らない同業者に、スマホで調べたビジネス会話調で頑張って聞き出そうとした。
しかし、三日目にして疲れ果て、四日目に頭の中でポンっと音がした気がした。そして、やってきた五日目。
「おぉ……何か目が据わってんぞ、嬢ちゃん」
電話の前には紙とペン。そして持ち込んだ獣人図鑑を置いた。そして戦闘を覚悟した私を剛健社長がからかって去って行った。
そして今日も電話が鳴る。
秒でとり『あー、俺だ。社長は何処だ』と言ってくる相手に「何獣人ですか?」と問いかけた。
ちょっとビックリしている相手に『陸系?飛ぶ系?やっぱり猿系なの?』とグイグイ聞いた。
『あー!?お前ら足場の猿と一緒にするな!俺はビーバーだ!』と言うので、獣人図鑑のビーバーのページを開く。
「ビーバーは建築関係や地質調査系に多いって書いてありますが本当ですか?」と聞いた。
『おぉ……まぁ俺は大工だが』
「大工のビーバー一郎さんで良いですか?」
『ふざけんな!海狸だ!』
「海狸は何の用ですか?海狸の歯は立派ですか?え?ビーバー獣人の……睾丸は体内にあるって……本当ですか」
『なんだ嬢ちゃん見て見てぇのか?ビーバーの睾丸はだなぁ……イザって時に外に出てくるんだぜ……って何言わせてんだよ!剛健に伝えておけ、北川の現場の足場あと一日延ばせってな』
「えっ……ボールだけがポンって落ちて来ます?それとも……」
『ああああ!てめー切るぞ、もう切るからな。書いておけよ』
「はい、睾丸は、いざというときに……」
『それじゃねーよ!馬鹿か!変態なのか!またな!』
電話は切れた。そして、電話の要件は聞けたし、知識が増えた。図鑑に大工の海狸、いざというときにポン。と書き込んだ。
五日目にして、ちょっと仕事が楽しくなってきた。今日は、一日で四種類の獣人の事が知ることが出来た。
満足感で笑っていると、剛健社長が帰ってきた。他の社員さん達は現場解散している。
「なんだ?嬢ちゃん、楽しそうだな」
今日の剛健社長のTシャツは、ハムスターだ。もちろん伸びている。
「社長。私は、もう嬢ちゃんではありません。今日は、ちゃんと業務をこなしました」
ちょっと出来る女気分になって立ち上がった。そして、一枚ずつメモを渡して要件を伝えた。剛健社長はニヤニヤ笑いながら、私の話を聞いている。
「おぉ……すげぇな、さすが詐欺師……コイツから要件を聞き出すたぁ、よし!認めてやる。時給も15%アップだ!」
剛健社長は、太い親指を立てた。
「やったー!社長の太っ腹!」
テンションが上がった勢いで、社長の大胸筋を叩いた。事務所内にゴリラドラムが響き渡る。
(お……面白い!)
あまりにいい音がするから、つい何度も叩いたけれど、社長は大きな海のような目で温かく私を見下ろしていた。
「お……親方!!」
良く、社員の人が社長のことを親方と呼んで抱きついているのを見るのだけど……その気持ちが理解できた。
「はははは」
仁王立ちして笑う剛健社長の胸に抱きついたけれど、私の腕は全然まわらなかった。剛健社長は、ソウンさんと違って汗臭かった。大地の匂いがする。
(これが……包容力……これが……親方)
「よし!入社祝いだ。飯食いに行くぞ」
「はい!私、駅前のお寿司がいいです!」
「お前……流石だな!どうせ、大して食えねぇだろ。よし、行くぞ!」
私たちは、大変美味しく楽しくお寿司を食べた。
スマホをサイレントモードにしたまま。
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