お酒

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お酒

「ただいまもどりましたぁ」  もう嬢ちゃんで無い、大人の女は、少々の甘いお酒も飲みました。「狼獣人に殺されたくねぇからな。アイツには絶対勝てねぇ」という剛健社長にマンションの前まで送ってもらい、陽気な気分でフラフラ歩きながら、エレベーターに乗って、ソウンさんの部屋まで帰ってきた。 「ノエ……」  玄関を開けて中に入ると、廊下の壁に寄りかかって腕を組んでいるソウンさんがいた。  その表情は暗い。ソウンさんの男らしい眉は寄って、眉間の皺を作っている。組んでいる腕には力が入っているようで、筋肉が盛り上がっているし血管が浮いている。 「しょうんさーん」  すごくハッピーな気分でフワフワしている私は、トートバッグを投げ捨てて、蹴り捨てるように靴を脱いで、ソウンさんに向かっていった。 「ノエ!?」  突進してくる私を受け止めようと、ソウンさんが長い腕を広げた。 「とりゃ!」  剛健社長のゴリラドラムを叩くように、ソウンさんの雄っぱいをバチンバチンと平手で叩いた。面白くて、面白くてソウンさんの胸に手をついて彼の顔を見上げた。 「えへへへ」 「ノエ……酒の匂いとゴリラの匂いがする……」  ソウンさんが、私の耳の上辺りを両手で包んで、おでこの辺りに鼻を寄せた。視界いっぱいに広がるソウンさんの首と胸は、肌質からして私と違うし……なんだかリアルに男性だと感じた。 「ゴリラ獣人の社長に歓迎会してもらいました!お寿司とお酒美味しかったですよぉ」  ソウンさんの胸から一歩離れて、敬礼をした。 「ノエ……雄と二人で食事に行き、酒を飲むのは……危ない。せめて迎えに行きたい。必ず連絡して欲しい」  ソウンさんは敬礼する私の右手を掴んだ。そして、腕を引いて私を引き寄せた。  私の顔はソウンさんの雄っぱいに埋まる。 (んー?なんでこの体勢?……でも、今日もソウンさんは良い匂い……ほっぺに当たる雄っぱいも温かくて気持ち良い……) 「ソウンさん?」 「帰ったとき……君が居ないと知って、すごく心配した」  ソウンさんの腕に力が入って、強く抱きしめられた。 「あっ!連絡するのを忘れました!ごめんなさい」  窒息しそうなので顔を上げて、顎をぐっと上げてソウンさんを見つめた。  相変わらずソウンさんは、表情が乏しい。 (ソウンさん……笑った顔が見て見たいかも……)  酔った思考能力は、衝動を抑えきれずに、腕を伸ばして、ソウンさんの頬に指を当てる。 「…ノエ……」 「ソウンさん……」  ぐいーっとソウンさんの口角に当てた人差し指を上にスライドする。とても筋肉しつだけど、搾られた体をしているソウンさんの頬には肉が少ない。 「ソウンさんのお顔小さくて、剛健社長の半分くらいです」  剛健社長の顔を思い出して、ぷぷぷっと笑ってしまった。 「……」  心なしか、ソウンさんの眼差しがキツい気がして、手を顔から離した。 「ノエは……ゴリラが趣味か?」 「ん?趣味?よく分かりませんが……剛健社長の親方的な包容力は、好きになりました!」 「!?」 (あれは皆さんが慕うのが良く分かります。すごく強面な野獣なのに、実はニコニコ話を聞いてくれる気の良い巨人。話をしていて楽しいし愛すべき上司です) 「包容力……」 「なんかですね、つい甘えちゃうかんじです」  剛健社長の周りには、いつの間にか人が寄ってくる。お寿司屋さんでも、いつの間にか隣に座るグループも会話に入っていた。 「ノエが俺に甘えないのは、俺にソレがないからか……」 「違います、違います」  ソウンさんは私の両手を掴んで、顔を近づけた。 (近い!ソウンさんの男らしい輝く顔面が近すぎて、酔いが回ります!) 「じゃあ何故だ」 「今でも十分お世話になってるし……ソウンさんに甘えるとか……無理です」  恥ずかしすぎて、顔を下げてソウンさんの視線から逃げる。 「……ノエ」  ソウンさんが逃げる私を追うように、掴んだ私の腕を横に広げて、俯く顔を屈んで覗き込んできた。 (何コレ!?なんなの……この体勢!心臓がバクバクで、血流にのってアルコールが全身に即配されている!目が……目が回るよぉ) 「俺は……もっとノエに甘えて欲しい……」 「あっ……あ……」  吐息もかかる程、間近でそんな事言われて、ドキドキしないはずがない。 (な……なんで……ソウンさんって、こんなに甘々攻撃してくるの!?無理!無理だよ!) 「ソウンさん……私……」 「分かってもらえたか?」 「もう無理……」  もはや立っていられなくなった私は、ソウンさんに腕を掴まれたまま床に崩れ落ちた。 「ノエ?ノエ……」 「頭が……頭が痛いです……」  朝が来て、朝食に出てこない私を心配したソウンさんが、やってきた。 「頭の中で、ハリネズミが……あのハムスターが回るやつで……くるくる……シュコーンって飛んで……痛いです。これは重病かもしれません……」  私はベッドに顔を埋めたまま、ソウンさんに言った。 「ノエ……それは、多分……二日酔いだ」  ソウンさんは、ベッドの側で長い足を折りたたんで膝をついた。 「二日酔い……あ……」  思い出される、剛健社長と飲んだお酒。甘くてジュースみたいだったから、何杯かのんだ。 「そこはかとなく、気持ち悪いし……私……もう、お酒は呑みません……」 「そうか……それがいい」  ソウンさんの大きな手が私の頭に乗って、優しく撫でてくれた。なんだか、すこし……楽になる気がする。  今日と明日が、お休みで本当に良かった。 「今、水を持ってくる。今日は寝ているといい」 「ありがとうございます……すみません」
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