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狼獣人 ソウン 視点
この世界には、数多くの人種が暮らしている。
その違いは、肌や瞳の色の違いではない。種族の違いだ。
猿、犬、猫、大型鳥類、牛、豚…多種多様だ。
見た目には純粋な人間と大きな違いは無い。しかし、身体能力や環境への耐性は獣人が勝った。
それに人間の遺伝子は、殆どが劣勢で、他の獣人と交わることで、段々と数を減らし絶滅した。
その絶滅したはずの人間が、目の前に一人存在している。
長年探し求めていた、俺の番が、そのたった一人だ。
俺は、獣人の中でも希少な狼の獣人だ。
狼獣人は番を持ち、男女とも生涯たった一人と添い遂げる。相手を尊重し助け合い、何よりも大切に想う。
狼獣人の番は、9割は狼獣人だが、そうでない場合もある。狼獣人は同族への信頼が深くコミュニティを大切にするため、幼い頃から番に出会える可能性が高い。
しかし、俺の番は、狼獣人の中には居なかった。
(やっと見つけた……)
この世に生を受けて29年、最近では俺の番はもうこの世に居ないのではないかと、疑う気持ちもあり、その不安を誤魔化すように、職務に没頭した。
俺は肉食の獣人らしく、戦闘に向いた身体的特徴を持っていた。
軍隊に所属し、中佐を務めている。普段は、一般に公になっていない任務にあたっている。
部下は優秀で感心させられる程だが、恐らく俺は彼らから……恐れられている。
獣人には本能的に個体の優劣がわかる。
それゆえに、周囲の人間は、俺とのソレを読み取り、非常に従順に従ってくれる。だが殊更に慕われることも少ない。
俺の性格がもう少し友好的ならば、また違ったのであろうが。
それに外見的にも問題がある。顔が強面なのだ。
俺が見ているだけで、相手が畏まって謝罪してくる。この狼らしい目尻の釣り上がった目つきが悪いのだろうか。
(番は、俺を見て怯えていないだろうか……)
俺は、込み上げてくる様々な感情を抑圧し、冷静に対応しなければと思うが、どうしても気持ちが前のめりになってしまう。
普段ならば、事故や事件に遭遇した民間人を助けるのに、相手に触れたりはしない。そもそも、荒事には対応するが被害者の対応は応援を呼び、消防や警察に任せる。
しかし、今回は例外だ。彼女は、俺の番で……人間だ。彼女の事は慎重に対応しなければならない。
そもそも、彼女は何故、この森の中で、まるで部屋着のような姿で、怪我を負っているのか。
その原因を想像すると、顔がより険しくなる。
世の中には、若い女性が巻き込まれる事件が尽きない。わいせつな目的を持った誘拐、痴情のもつれからの傷害……色々な可能性が頭をよぎり、彼女がこんな所を彷徨う羽目になった原因に強い怒りを覚えた。もしも犯人がいるならば、いかに残酷に殺してやろうかと脳が勝手に動き出す。
だが、今の優先順位は、それではない。彼女の保護が第一だ。
彼女の様子を見る限り、転倒したであろう怪我以外は読み取れない。
しかし、安心は出来ない。なにしろ、彼女は屈強で免疫力の高い獣人では無いのだ。儚く弱い人間なのだ。
「大丈夫か」
彼女を背負い、走りながら聞いた。
「はい。でも……凄いです、人を背負って走るなんて、私には出来そうもありません」
「君が、そんな事をする日は来ないだろう」
この子は、凄く華奢で小さい。
普段、俺が目にするのは、軍に所属する鍛え上げられた獣人ばかりだ。
この頼りない体躯に恐怖すら覚える。
こんな細い足で走れるのか?
あの腕で何を持つんだ?
普段80㎏近い装備を背負い戦闘訓練をする時よりも軽すぎて、うっかり飛んでいくのでは無いかと心配になり、つい彼女の足を支える腕に力が入りそうになった。
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