現地見学会

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現地見学会

   その後、私はポンさんと剛健社長と三人で、剛健邸へ向かった。  剛健社長のお宅は、ゴツイ機能性の高そうな新しいお家だった。そして、その敷地内には、一昔前の雰囲気が漂うファミリーで暮らせそうな一軒家が建っていた。  ちょっと、ボケてみようと思って「わぁ、こんな良いお家すいません」と新しい方の家に入ろうとしたら、ポンさんが大変喜んでいた。 「社長、気がつかなかったんですが、ご結婚を?なんかスイマセン、もう抱きついたりしません」  どう考えても一人暮らしのお家には見えなかった。  大きさもそうだけど、庭には可愛いお花とかがキュートな植木鉢に入れて並べられていたり、所どころに小動物やファンシーな置物がある。  いつも社長が乗っているキャラバンの他に、薄紫の可愛い軽自動車まで置いて有る。 「なりゆき、騙されるな。それは全部そいつの趣味だ」 「っ!そうなんだ、社長、可愛いのが好きなんですね。そっか、確かにTシャツもいつも伸びちゃっているけど、可愛いプリントはいってますもんね」 「おい、俺に妻がいなくても、お前には騙されないからな」 「安心して下さい。私、人の物にしか興味ありません」  とりあえず、もうこの話題には全部乗ってみることにした。 「俺には別れた妻が居る」  ポンさんがニヤニヤ私をみている。 「ポンさん、捨てられてるじゃ無いですか!バリバリの独り身じゃないですか」 「そっちのゴリラよりましだ。そのゴリラは男にはモテるが、女相手だと100%良い人で終わるか、お前みたいな変なのしか寄ってこない。まだ三十二なのに既に枯れている」  ポンさんは、容赦なく剛健社長の背中を叩いている。 「さんじゅうに?三十……二歳……うそ、社長思ったより全然若いじゃ無いですか!」 「てめぇ……俺をじじぃだと思ってたのか?」  社長が私の顔を、ガン付けるようにジロジロと見た。うん、厳つい。なのにどこか可愛い、不思議だ。 「いや、素晴らしい包容力と親方感だったから。社長、私が社長のヒモに……」 「いらねぇよ!今でも十分カモにされてるわ!」 「違いねぇな」  三人でワイワイ楽しく家を見て回って修繕点を確認した。家は、まさかの4LDKだった。しかも、ゴリラ獣人の家族が暮らしていたから、私には全てが広く感じた。  そして、途中でソウンさんから電話がかかって来た。出ろよという社長の言葉に甘えて電話に出た。 「今ですか?社長の離れを大工さんと見学中です」  私が話している横で、ポンさんが「誰だ?」と社長に聞き「カモだ」と教えられているので、私が口の動きだけで「狼」ですと修正した。 『今から行く』 「え?」  なぜか来ると言うソウンさんを「おー面白そうだから呼べ」と社長が言うので呼んだ。  そして、私と、社長と、ポンさんと、ソウンさんという不思議な面子がそろった。 「ノエ、俺はこの北側の部屋で良い」  見学中にソウンさんが不思議な事を言いだした。 「ん?」 「かかる費用は全部出します。もちろん家賃も。体温調節が苦手な獣人でも快適に過ごせるように、高い空調入れて下さい。浴室は箱ごと取り替えで」  ソウンさんは、まるで自分の家のリホームみたいにポンさんと話している。 「ああ?じゃあ…今度業者呼んでサイズ見て選べるのから選べ」 「ソ……ソウンさん?え?ソウンさん……マンション……」 「解約する。俺も此処に住む」 (これはどういうこと?ソウンさん……実は、結構病んでるのかな?番に捨てられて……)  私は思考回路がこんがらがって、助けを求めるような目で剛健社長を見た。すると、社長は、呆然と私をみている。 (聞こえる……社長の……お前、すげぇな……って声が) 「ポン、もう一室もきっと他の男が住むぞ、コウモリ用にしておけ」 「剛健社長!?」  何てことを言いだすのか!私は驚愕した……。  だけど、彼の言葉は的中した。
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