ソウンさんの番

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ソウンさんの番

色々融通を利かせて頂いて、家の大まかな工事は二週間くらいで終わり、あとは住みながら直して行くことになった。 今日は、ソウンさんと天崇さんが各自のお引っ越しをしているので、私はお休みの日を更紗先生と過ごしている。 「更紗先生……天崇さんと一緒に働いているんですよね?」  オシャレだけどリーズナブルなカフェで、カフェオレをスプーンでかき回しながら聞いた。更紗先生は、今日もいい女が溢れ出ている。たわわなオッパイが強調されたタイトなワンピースだ。 「そうね、まさかノエの恋人だったとは、流石ね」 「いえ……あの記憶無くて……天崇さんってどんな人なんでしょうか?」 「どんなって程しらないけど、凄く優秀な頭脳ってことは間違いないわね。ウチのような中規模の病院で働いてるのが不思議よ。最先端の研究所でも十分やっていけると思うわ」 「……そう、なんですか」  私、なんでそんな人と付き合ってたのかな?やっぱり同じ施設で育ったっていうし、幼馴染み的な感じだから? 「で、ノエはどっちが好みなの?」  更紗先生が私を見透かすような目で見つめた。そんな姿も、とても素敵だった。 「どっち?」 「ソウンと天崇先生よ」 「あの……前からちょっと気になってたんですけど、聞いてもいいですか?」 「なに?」 「ソウンさんの事を振った番さんは、どんな女性だったのですか?」  更紗先生は、私の質問に目をパチパチさせて、しばらく止まってから、コーヒーを飲んだ。 「貴方でしょ?アイツの番。二十九年も待ちに待った」 「……え?私、人間ですけど……実は狼獣人ですか?」  私は自分の中に眠る狼の血を探すように漲るかもしれない力を意識した……けど、分からない。 「狼獣人の番は、九割狼獣人だけど、一割は別よ。出会えない事が多いけど」 「そうなんですか……ん?え?つまり……どういう……」  思い起こされる、過保護なまでの甘々攻撃。自分のマンションを解約してまで、私に着いて来ようとする謎の寂しがり屋な行動。 (私が、ソウンさんの番?) 「で、でも……ソウンさん、そんな事は一言も言ってないですし」 「まぁ、じわじわ囲うつもりだったんだろうけど、ノエが色々予想外な行動をとった感じよね」  更紗先生は、クスクス笑って残っていたポテトを囓った。 「……じわじわ……」 「そう、狼獣人は番と基本的に共依存みたいな感じで、べったべたよ。相思相愛の間は良いけど、貴方の心が離れたら悲劇だから、アイツと添い遂げる覚悟が無いうちは、気のある態度は取らない方がいいわよ」  更紗先生が私の手をガシッと掴んだ。 「えっ……あの……その」 (これは前門のコウモリ、後門の狼みたいな状況でしょうか?でも、なぜか嬉しいとかそういう感情が湧かない。だって、天崇さんの好意は、記憶喪失前の私にあるわけだし……ソウンさんが、私を番だから好きっていうのは……私個人だからという気がしない。なんだか、私とは別の空間で起きているみたい……現実感が無い) 「まぁ、恋愛は自由よ。元彼を選ぶも、永久的な奴隷に出来るストーカーを選ぶも、第三の男でも、それとも……アタシと遊んでもいいし」 「更紗先生、格好いい……」  私は、更紗先生を見つめた。思わず二人で笑ってしまう。 「私、更紗先生みたいな素敵な女性になりたいです!」 「えー、そっち?私みたいな素敵な女を自分のモノにしたいって思ってよ」 「ま…ますます格好いいです!」 「とにかく、別に番だから選ばなくていいし、元彼だから恋しなきゃいけないわけじゃないし、気楽にすごしなさいよ」
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