男気ゴリラの理想の嫁

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男気ゴリラの理想の嫁

 二人で二階から下りていくと、リビングに居たはずのソウンさんは居なくなっていた。  パソコンも片付けられているし、玄関には、いつも履いているブーツも無かった。 (お出かけしたのかな?) 「ノエ?ほら、ゴリラ社長、ちょうど出かけるみたいだよ、乗り込もう」 「えっ……ちょっと…わぁ!」  先に玄関を出てドアを開けていてくれた天崇さんが、駐車場で可愛い軽自動車に乗り込もうとした剛健社長を見つけた。そして靴を履き終わった私の腕をとって走り出した。 「俺の車はタクシーじゃねぇ」  剛健社長が、小さな運転席で大きな体を丸めて運転をしてくれている。  運転席に剛健社長、その後ろに天崇さん、その隣に私が座っているのだけど、車体が右に沈んでいる気がする。  助手席には、可愛いアイアイの人形が置かれている。 「人命救助ですよ」  天崇さんは、狭い軽自動車で長い足を持て余している。 「それにしても、なんでこんな車のってるんですか?」 (き、聞いちゃった!そんなハッキリと!)  天崇さんの正直すぎる疑問に、私がハラハラする。 「うるせぇな。俺はそのうち可愛い嫁と出会って、尻に敷かれて、嫁の車で可愛い娘と嫁を送り迎えする、おちゃめなゴツイ旦那になる予定なんだよ!お前ら、その時はあの家から出て行けよ」 「……」  天崇さんが、半笑いの顔で私の方を見ている。 「社長、なら先に車じゃ無くて……お嫁さんを探さないと」 「おめぇは黙ってろ!直ぐだぞ、あっという間だ」  本当は緊迫している状況なはずなのに、剛健社長のせいで空気が軽い。 「それで、ゴリラ社長さんはどんな女性が好みなんですか?」  天崇さんは何故か長い腕を伸ばして、私の肩を抱いて頭を寄せると、バックミラーに映る剛健社長に質問した。 「あー、そりゃ決まってんだろ、猿系の獣人で、物怖じしない女だ。ガンガン物言ってくる、ちょっとワガママだけど可愛げのある奴がいい」 「剛健社長、逆に難しいですよ、あんまり居ないですよ社長にガンガン物言える人なんて……だって、見た目がどう見ても反社会的な集団のボスですもん。始めたお会いしたときに、私、死んだって思いました」  社長の為にも、真実をお伝えしなければと正直に言った。 「ノエ、きっと何処かにいるよ。ゴリラ社長さんが俺みたいに、理想の人に出会えるように祈ってあげよう」  天崇さんの綺麗な人差し指が、私の頬に触れてクイッと天崇さんの方を向かされた。目の前に迫る甘い笑顔が美し過ぎて、その顔を手で押し返した。 「近い!近いです!」 (心臓がヤバい、顔が真っ赤になるよ……) 「てめぇら……降ろすぞ」 「あっ!そこ、そこです!」    チンパンジー獣人さんが倒れているビルの近くに着いた。  もしかしたら、もう逮捕とかされちゃったかもしれないし、どこかへ無理して移動したかも知れない。 「よし、行くか」  社長がパーキングに車を停めると、車から降りた。 「えっ?剛健社長も来るんですか?」  最初にテロリストかも知れないって言ってあるのに。本格的に巻き込んでしまう。 「乗りかかった船だ。俺らの現場にゃ前科者なんて掃いて捨てるほどいるわ」 「じゃあ、ノエが危ないから、ゴリラ社長が先頭で」 「天崇さん!」 「ははは」  記憶を失って、再び出会ってからまだ日が経ってないからだけではなく、本当に天崇さんは、飄々としていてつかみ所が無い。  私たち三人は、連れ立ってビルの階段を登り、屋上へと辿り着いた。 「こっちです!」 「ノエ!」 「ちょっと待て!」  ドアをくぐり抜けて、我先にと飛び出そうとしたら、右手を天崇さんに繋がれ、剛健社長に服を掴まれた。 「危ねぇだろが、テロリストなんだろ」 「そうだよ、ノエ。ほら、社長さんが俺達の弾よけになってくれるからさ」  天崇さんは私を抱き寄せて、すすすっと剛健社長の後ろに回った。 「て、てめぇ……すげぇな、清々しいまで我が道を行くタイプだな」 「ありがとうございます」  剛健社長の嫌味に天崇さんが輝く笑顔で答えている。 「いえ、此処は私が先に。ほら、弱そうなのが近づいていった方が相手も怖くないと思います」 「おめぇは引っ込んでろ、俺は女を盾にするようなゴリラじゃねぇ!着いて来い」  剛健社長が、厳つい肩を揺らしながら歩き出した。 「社長!格好いいです!」 「……」  思わず私が叫ぶと、突然天崇さんがスタスタと歩き出した。  剛健社長を追い越して、前に進んでいく。 「?」 「可哀想な犠牲者だな」  ボソッと呟いた社長が天崇さんの後に続く。
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