ラッキースケベと、ハニトラ。

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ラッキースケベと、ハニトラ。

「……ん?」  次の日の朝、目が覚めて瞼を開くと、私の右の頬は天崇さんの腕の上に乗り上げていて、その大きな体に抱きついていた。目線の先に、天崇さんの喉仏、シャープな顎、高い鼻が並んでいる。 (えええ?!)  驚きは声にならず、ポカーンと口を開けて数秒固まってしまった。すると「んん……ノエ、おはよう」とまだ眠そうな天崇さんが、甘い笑顔で私を見下ろした。  長くて綺麗な指が私の寝乱れた髪を梳いている。 (ど……ど、どう言うことでしょうか?思い出して、昨日の夜の事を!繋がれ、私の脳のシナプス!!)  頭痛を耐えるように、うーーーんと唸ってみたけれど、何も思い浮かばない。 「まだ、ちょっと早いよ。もう一回寝よう」  天崇さんは目を細めて腕に填まっているスマートウォッチを見ると、ついでに私を抱き寄せて、顔を寄せてくる。 「待って下さい!!」  天崇さんのお顔がキス直前まで近づいて来たので、慌てて、その顔を押しやった。そして腕から抜け出して、ベッド上を後ずさった。 「天崇さんが……なぜ、私の部屋に……なぜ私のベッドに?」  人差し指を立てて、天崇さんとベッドを順番に指さした。 「だって恋人同士だよ」  何言っているの?といった顔で笑った天崇さんが、腕を広げて「おいで」と私を誘う。 「今は、今はちょっと違うと思います!いえ……あの、忘れてしまった事は大変、心苦しく思いますし、逆の立場だったら泣けちゃうと思いますが……でも、一回、一回その恋人関係を白紙にしていただくことは……」  肘をついて寝そべる天崇さんに、神に祈るように手を組んでお願いした。 「だーめ。将来も誓い合ったんだよ。あっ……ほら、恋人らしいことしたら思い出すかもよ」  天崇さんが、腰に掛かっていた布団を剥いで、部屋着にしてはオシャレすぎるユルッとしたズボンのポケットから正方形の何かを取り出した。上と下がギザギザの切れ目が入っていて、丸いリング状に盛り上がった、何か。 (なんだっけ、あれ……)  その四角い何かの袋の端が、天崇さんの口にくわえられ、彼は、私に見せつけるように……それを破ろうとする。 「駄目―!!」  私は四つん這いで、犬みたいに駆け寄って、それを取り上げた。 「天崇さんのバカ!!」  ぐしゃっと、コンドームを握りしめて部屋の外へと逃げ出した。 (信じられない!絶対に遊ばれている……天崇さんのアホ!)  ドタドタと階段を駆け下りて、リビングに入った。すると、そこには、今日もシャワー後の上半身裸のソウンさんと遭遇した。 「おはよう、ノエ」 「……」  改めて、私は男二人と屋根の下で暮らしているという状況に気がついた。 (これ……あれね……ラッキースケベってやつね……) 「ソウンさん!」  私はドスドスと歩き、ゴミ箱にコンドームを投げ捨ててから、ソウンさんに近寄っていった。 「どうした、ノエ?」  まだ髪の毛の濡れているソウンさんの色気が凄い。漆黒の爽やかな短髪が濡れて額やこめかみに張り付いている。  筋肉で覆われた厚い身体が惜しげ無く晒されて、目のやり場に困る。つい乳首を見てしまったのは、私の罪なのだろうか。 「ソウンさんは、私が、上半身裸でウロウロしていたらどう思いますか?」  体に目が行かないように、精悍なお顔を見つめていった。 「どうって、ノエもその気かと、喜んで部屋に連れて行く」 「違います!不正解です!!」  思いっきり胸の前で腕をクロスして、バッテンマークを作った。 「じゃあ、更紗先生が上半身裸で歩いていたら?」  ちょっと想像して、おっぱいに触れてみたくなってしまった。 「……余計な事に巻き込まれないように、気配を消して退避する。後日、文句を言う」 「何で……」 「俺は、君にしか興味が無い」 「……」  一旦、目を瞑って心をおちつけ、息を吐いた。 「とにかく、このお家では裸禁止にして下さい。次、裸で歩いていたら、雄っぱい揉みます!」 「……別に構わないが」 「分かって貰えてよかったです」 「そうじゃない」 「ん?」 「ノエになら、何処に触れられても構わない」  ソウンさんが、両腕を広げた。つい、誘われるように腕を上げそうになって、慌てて自分の反対の手ではたき落とした。 「そうじゃなくて!!これが……ハニートラップ!!」 「ノエ、それは違う。これは、ただの誘惑だ」  ソウンさんの指が私の顎をすくい上げるように、撫でた。 「いやああぁぁ!」  頭がボフンと爆発した私は、今度はリビングから走って逃げ、剛健宅へと向かった。
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