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獣人の世界の掟
「てめぇ、朝から何騒いでるんだ?」
郵便受けから新聞を取り、玄関に戻る所だった剛健社長の太い腕を掴んで、一緒に家に入った。素早く鍵をしめる。
剛健社長は、無精髭も生えて、髪もボサボサで、雄を通り越してオジさん感が強烈だ。
改めて、天崇さんとソウンさんの美しさを感じる。
あの二人には毛穴とか存在しているように見えない。
でも、剛健社長には、毛穴あるし腕に毛も生えている。何だか、安心する……。
「社長、ジーパンさんは大丈夫ですか?」
「あぁ、昨日ちょっと熱が出たが、コウモリが何かして朝には下がってたぞ」
「よかった。まだお休みですかね?」
「起きてたぞ。それより、朝から何を大騒ぎしてたんだ?」
剛健社長がサンダルを脱いで上がったので、後に付いていく。社長の履いている短パンの柄が可愛いリスだった。
「そうだ、社長。私の部屋に鍵をつけてください」
「鍵?意味ねぇだろ」
顔だけ振り返った社長が片方の眉を上げて言った。
「どうしてですか?」
「鍵っていうのは、開けられない相手にしか意味がねぇ。アイツら絶対に何でも開けられるだろう?」
社長が手にした新聞で私の頭を叩いた。
「えーー」
困った。
「部屋に入らないように、ちゃんと調教しておけ」
「そんなの出来ないですよ」
二人で話している間に、ゲストルームに辿り着いた。
「ジーパンさん、おはようございます」
声を掛けて、ドアを開けて中に入った。
ジーパンさんは、ドアの方に向かった側臥位で寝そべっていた。目がギョロッと私をみた。
正直、ジーパンさんの顔色はさっぱり分からない。
「調子はいかがですか?」
「……昨日より良い」
「それは良かったです!」
ジーパンさんが答えてくれたのが嬉しくて、思わずニコニコわらってしまう。
「だけどよぉ、ほら見ろ。新聞の一面はお前の話題でもちきりだぜ」
社長が私の後ろで椅子に腰掛けて、新聞をガサガサ開いた。
「社長!なんて事を!デリカシーは?」
「知るかよ。コイツだって知りたいだろうが。ほら見ろ」
社長が私たちに向かって新聞を広げたから、その記事に目を通す。
新聞の一面には、軍の偉そうな人の会見写真が掲載されている。
「ジーパンさん……本当にテロをなさる予定ですか?」
ちらりとジーパンさんを見る。
「……いいや。俺が殺したいのは、その男だ」
ジーパンさんが、新聞に映る写真を見つめた。
その言葉に血の気が引く。ジーパンさんの、その心境に至るまでの事情は知らないけれど、私たちが彼を助けたことで、死ぬ人がいるかもしれない。
「あの……思い直すってことは、ないでしょうか……」
「……お前達に迷惑は掛けない」
「十分迷惑だぜ。でも、まぁ俺は、今回の軍のやり方には納得がいかねぇ。あれだろ?有ること無い事でっちあげて、寄ってたかってお前を殺そうとしているんだろ?獣人らしくねぇ、正々堂々戦えつーんだよ」
社長が新聞を握り潰した。
「そ…そういう問題ですか?」
「そーだろーが。強い奴が生き残る、ソレが獣人界だろ。てめぇの玉は、てめぇで守る。それが男だ」
(ここの法律とかって、どうなっているんだろう……忘れちゃっているからアレだけど……社長の言い分が正しいの?)
「その世界……私、すぐ死にません?」
ちょっと気になって聞いてみた。
「お前には、男を利用する能力があるじゃねーか!」
社長が新聞をベッドに投げて、ゲラゲラ笑っている。
「だから……もう……」
「お前の何処にそんな魅力があんのか、俺には検討がつかねーけどな。頭、爆発してんぞ」
社長の深爪ぎみの太い指が、私を指さした。
慌てて捲れ上がっている前髪を抑えるけど、手を離すとまた、ぴょんと立ち上がった。
「俺の愛用のポマードをかしてやらぁ」
社長が、ドスドスと部屋を立ち去る。
「いりません!オジさんの匂いになっちゃいます!」
聞いているのか、聞いていないのか、社長がいなくなった。
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