ヘアピン

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ヘアピン

「五月蠅くして、すいません」  気になって、前髪を引っ張っていると、ジーパンさんが動き出した。  もぞもぞと腕を動かして、服のポケットを漁っている。  すると、そこからは、年季の入った布の袋が出てきた。ジーパンさんが、その中を漁り、そこから小さな可愛い袋を取り出した。お店で買ったままな感じの物だ。 「……やる」 「ジーパンさん?でも……これ、誰かにあげるものじゃ……」  差し出されたので、とりあえず受け取って聞いた。 「……ちがう」  とりあえず、好意を無駄にするのも良くないと思い、袋を開けた。 「わぁ、かわいいですね」  中にはゴールドの花を形取ったヘアピンが入っていた。 (まさか……これは、死んだ妹とか、苦渋の決断で別れた彼女とかにあげる予定だった物みたいな……そんな物では) 「私が、貰っても良いのですか?」  ゴクリと唾を呑んで聞いた。 「ああ……」 「では、大切に使わせて頂きます」  ソレをつけようと、散らかっている前髪を一つに集める。すると本当に剛健社長がポマードの瓶をもって戻ってきた。 「よし、俺が最高のリーゼントを作ってやる」  背後に立つ、巨漢のゴリラが意味の分からない事を言いだした。自分だって普通のオールバックなのに。 「いやー!やめてください!独特の匂い!嫌です!」 「おはようございます」  私の前髪が剛健社長につかまれる前に、天崇さんが現れた。首には聴診器が掛かっていて、手には点滴が持たれている。 「はい、社長。ひっかけて」  天崇さんが、点滴を社長に渡すと、私の後ろに立って、前髪をささっと纏めて、ピンを奪って留めてくれた。 (スマート……手慣れている感じがする……) 「ノエ、狼、出かけたし、アイツが置いて行ったご飯食べてくれば?」 「あっ、はい。ありがとうございます。では、ジーパンさん、また」  頭の上のピンを指さして、ぺこりと頭を下げた。
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