良い匂い

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良い匂い

 ぼーっと外の景色を眺めていると、木ばかりの森の中から、そとは段々と都心の景色に変わってきた。 「うわービルですね。本当に大きいですね人も沢山います」 「……ノエは田舎暮らしだったのか?」 「はっ!確かに。そうのなのでしょうか……空まで届きそうな建物に感動しています」 「さっきの質問だが、人間が迫害されるわけじゃない。滅びたのも遺伝子が劣勢で次第に数を減らしただけだ。むしろ……人間を好む種族の獣人は多い。だから迫害はされないが、慎重に動かないと面倒ごとになる可能性がある」 (そもそも、この世界の人間と獣人はどっちが先だったのかな?猿から人間に進化したんでしょ?猿から猿獣人、狼から狼獣人?猿から人間からの何故か他獣人?さっぱりイメージがつかない……遺伝子操作とか?うーん謎ですが、まぁ良いか。とにかく当面の生活のほうが問題だよ……記憶喪失だからか、帰りたい!みたいな思いはすくないけど、これからの生活に不安しかないよ……) 「すまない、心配を煽るような事を言ったか?」  バックミラーに映るソウンさんと目が合う。 「いえ!ただ……私、人間臭みたいなのがあるんでしょうか?」  ソウンさんから借りたジャケットの隙間からTシャツを引っ張って、クンクンと匂いを嗅いだ。 「いや……俺がノエを人間だとわかったのは特別な能力だと思って貰って良い……感の鋭い獣人には不思議な違いを嗅ぎ取られるかもしれないが……殊更に人間を好む獣人を避ければバレないだろう」 「本当ですか?」 「ああ。……着いた」  ソウンさんの運転する車は、タワーマンションの大きな地下駐車場に入っていく。  高級車が並ぶ中に、車はスムーズに駐車され、ソウンさんはスマホを取り出した。私は、邪魔にならないようにとにかく大人しく静かに成り行きを見守った。 「あぁ…俺だ。着いた。今から行く、ああ。よろしく頼む」  ソウンさんの通話が終わった。降りるのかと腰を上げると「動くな待っていろ」と制された。そして直ぐに運転席から降りたソウンさんが、後部座席のドアを開けて腕を近づけてきた。 (えっ……嘘、まさか…)  逞しい腕が近づき、顔がすぐ至近距離に来たことに驚いている間に、足と背中に腕を差し込まれて……。 (これって……姫抱きでは!?は……恥ずかしい!想像以上に恥ずかしいよ!ソウンさんの凜々しいお顔が目の前にあります!鼻が高い!男らしい眉毛、鋭い眼光……睫毛長いんですね……はっ!思わず観察してしまった)  百面相のように驚いたり、真っ赤になったり、コロコロと表情筋が動いてしまう。そのようすが面白かったのか、ソウンさんが少し笑っている。 「少し我慢してくれ、行くぞ」 「我慢なんてとんでもないです!」  役得です、と言いかけて、気持ち悪いかもしれないと黙った。しかし、良い匂いがして、思わずクンクンと匂いを嗅いでしまった。 「匂うか?」  神妙な顔をしたソウンさんがチラっと私を見た。 「いいえ!良い匂いがして……すいません……気持ち悪いですよね。もうしません」  手で自分の鼻と口を覆った。 「良い匂いか……それなら良かった」  ソウンさんが力の抜けた優しい笑顔になったので、私は狼狽えた。 (破壊力!美形男性の優しい笑顔って……破壊力がすごいよ!しかも至近距離、直視できない!目が潰れます!心を……心を無にしよう……私は只のソウンさんの荷物。そう重い米か、大量に注文された洗剤です)  私が心を無にしている間に、ソウンさんは駐車場のエレベーターに乗り込み、マンションのエントランスを通り、再び各階に向かうエレベーターに乗り込んだ。
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