事態が動く

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事態が動く

ジーパンさんが剛健社長の家で療養生活を始めて、七日が経った。ジーパンさんは、多少の痛みが残るものの、普通に生活が出来るようになった。  剛健社長は大きな仕事が終わったとかで、今日は朝寝坊している。  天崇さんは、今日はお休みだけど朝から何処かへ出かけて行った。ソウンさんは、今日も軍と此方の二重生活だ。朝から出かけて行った。  五日で事務仕事が片付いた私は、昨日はジーパンさんとソウンさんと、社長宅の花札とカードゲームに興じ、今日は大掃除を実施している。 「俺は、庭の草をむしってくる」  ジーパンさんが、キャップとマスクを付けて言った。 「大丈夫ですか?」  肋骨痛くないのだろうかと心配になって聞いた。 「ああ」  逃亡生活中だけど、私たちの日常は、かなり平和だ。  剛健社長のお家の前は人通り少ないし、結構高い塀に囲まれている。 「では、よろしくお願いします。私はお風呂場の見えない場所のカビと戦ってきます」  最近、ソウンさんに教えて貰った本物っぽい敬礼をした。  ジーパンさんは鼻で笑って、キャップを深く被り直して出て行った。  社長宅の風呂カビトレールという謎の商品でフチに隠れたカビに吹きかけて置いておいて、シャワーを当てると黒いカスが一杯流れて、妙な高揚感に浸っていた。 「おい」 「きゃあ!」  ふふふ、と流れるカビを喜んで見ていると、いつの間にか後ろに剛健社長が立っていた。  寝起きの剛健社長は男気が溢れすぎている。  一晩で生え散らかした無精髭、プロレス後のレスラーのような髪型。漂う男臭さ。そして、不釣り合いな可愛いTシャツとトランクスのパンツ。  朝から輝くように綺麗な天崇さんとのギャップが凄い。同じ生物なのかと疑ってしまうけど、何となくお父さんがいたらこんな感じかなと思う。言ったら怒られそうだから絶対に言わないけど。 「シャワーを使わせろ」 「はい、いま丁度終わりました」  グッと親指を立てて、やってやったぜって顔をした。 「おー」  剛健社長が、私に構わずTシャツを脱ぎだした。はち切れんばかりの胸板が現れる。思わず思いっきり平手で叩いてみた。バチーンといい音がした。 「痛い!」  叩いた方の私の手の方が痛い。 「てめぇ……どうしてくれんだ、紅葉じゃねぇか」 「そっちこそ、指の骨が折れました……どうしてくれるんですか……」  掌にフーフーと息を吹きかけ、そして手の匂いをクンクンとかいだ。そして、ちらっと社長を見る。 「クサくねえからな!」 「意外と無臭です」  へへっと笑うと、凄く渋い顔をされてしまった。 「俺は、お前ほど恩知らずで失礼な女に会ったことがねぇ」 「恩は凄い感じてます!はっ!社長の新聞を取ってきます」 「おぉ、気をつけろよ」 「はーい」  掃除道具を持って立ち去った。  玄関から出て、新聞を取り行くついでに、ジーパンさんの様子を見ようと、草がボーボーに生えていた庭の方へ脚を向けた。 「ジーパンさん、調子はどうですか?あれ?」  庭で草をむしっているはずのジーパンさんが見当たらない。  胸騒ぎがした。  小走りになって、剛健社長のお家の周りを一周したけれど、ジーパンさんは見当たらない。  庭の草をむしった形跡も無い。 (まさか……攫われたとか!? でも、不審な物音はしなかったけど……もしかして、出て行った!?)  私は、外へと出る門へ向かって走った。
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