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思い出した過去
「ノエ、今日から、また此処に住むよ」
「そうなの?」
「そう」
ある日、昔、天崇と暮らしていた家に戻ってきた。
そもそも、私は何故、この家を一度出る事になったか、キチンと理解していなかった。
嵐が来るという日に、ここは危険だから避難指示がでたよ、と天崇に言われ「山から出て良いの⁉」と喜び勇んで天崇の後を着いて山を下りた。
それからは、あっちこっちの街で暮らしたけど、結局私は何処でも家の中、ホテルの中で、期待した自由な生活は送れなかった。
でも、過干渉な程に私に構い、気味悪く思って居た博士と生活しなくて良いのは嬉しかった。
「もう、この辺りなら自由に出歩いても良いよ」
「本当に⁉」
「大分、ほとぼりも冷めたからね」
「何の?」
「秘密。でも、どうせノエは、インドアだから、ずっと漫画か小説、それにゲームに、古の時代のドラマとか映画見てるんでしょ」
昔から綺麗な顔をしていた天崇は、もうすっかり輝くような美形になっていて、彼の動きは、まるで映画の中の人みたいだった。でも、私は彼が意外と意地悪で、我が儘な性格なのも知っているから、騙されたりはしない。
「自分だって、変な研究ばっかりしてるくせに……どうせ、あっちの研究所を使いたくて帰って来たんでしょ?」
「失礼だな。この研究の殆どはノエの為だよ」
「はいはい。私は、物珍しい人間なんだもんね。全然、そんな風には思えないけどね。皆私と同じなのに」
この世界で、自分が珍しい種類だなんて言われても、ピンと来なかった。だって、見た目は、皆同じだし。獣人なんて……むしろ、子供の頃に、檻に入れられていた動物の見た目をしていた、あのチンパンジーたちの呼び方に思えていた。
「もう、それが人間の証拠だよ。種族の匂いもサッパリだし、相手の強さやヒエラルキーも理解できないし。弱いし、すぐ病気になるし……手が掛かりすぎる」
「面倒見てなんて頼んでないよ」
「はいはい、好き好んでやってます」
天崇は、何かにつけて、私は天崇と一緒に居ないと生きていけないと洗脳くさい事を言ってくる。ずっと二人で生きて来たから、共依存みたいになっているのかと、ちょっと心配になる。
「天崇も、大概手が掛かるよ。食の好み偏り過ぎだし、匂いと音に五月蠅いし。そんなんじゃ、見た目良いのに恋人出来ないよ」
私は、天崇の事を、頼りになる兄で、甘ったれて側に居たがる弟のように思って居た。
「俺は、ノエだけで良いよ」
煌めくような笑顔を向けた天崇に、凄い嫌な顔を向けた。
「もう、俺、泣いちゃうよ」
「ご自由に~」
天崇を、その場に置き去りにして、私は家の中に進んだ。
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