ビギナー

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ビギナー

 「……」  トコトコと階段を降りる。  リビングのソファで寛ぎ、お酒を嗜んでいたソウンさんが振り返った。 「ノエ、スマホならテーブルの上だ」  ソウンさんは、Tシャツにゆったりとしたスウェット姿だ。そんな何てこと無い服でも、格好いい。男らしい色気が溢れている。 「ソウンさん。お酒はウィスキー派ですか」  スマホのあるテーブルを無視して、ソファに近づいて、隣に腰を下ろした。  ソウンさんは、私が近づいてくると思っていなかったのか、少し目を見張って姿勢を正した。 「い、いや。特にこだわりはない。剛健に押しつけられた」 「そうですか、ちょっと、私も一口ください」  景気づけに一杯。ソウンさんに手を伸ばしたら、ソウンさんは腕を引いて、グラスにミネラルウォーターを足した。 「また二日酔いで、頭にハリネズミが来るぞ」  そう言って微笑み、グラスを差し出してくれた。  はい! 格好いい。 はい、素敵!  もー、今のやばいです。ぐって来ました。普段、強面なのに、ふっと笑うの反則です。  もう好き、抱きつきたい。  ゴクゴク  少し飲んで、グラスをローテーブルに置いた。 「ソウンさん、好き」 「ノ……ノエ!」  ソウンさんの胸板に顔を埋めて抱きついた。ソウンさんは、硬直し両手を挙げた。 「素敵すぎます」  ソウンさんの胸に顔を擦りつけて、足を跨いで座った。 「……じゃあ、何故……俺は、君に避けられいるんだ」 「えっ」  やはり、気づいてましたか。私は気まずくて、渋い顔でソウンさんを見上げた。 「あの、ですね……ソウンさんのことは、凄く好きなんですけど……私……まだ、誰とも、その……夜のアレとかした事無くて」 「あぁ……」  ソウンさんの声が一層低くなった。 「あれ? そういえば、ソウンさん! ソウンさんはどうなんですか?」  番一筋と聞く狼獣人なら、ソウンさんも私と同じビギナーさんなのでは? それなら、なんだか、ちょっと仲間意識湧くな、と笑顔で見上げたら、ソウンさんは、目を閉じて無の表情になっていた。 「え? あれ? ソウンさん……番、一筋系なんじゃなかったんですか?」 「……業務として、仕方なく類似行為を行ったことがある。断じて望んではいない」  ソウンさんの目はまだ閉じられている。 「る、類似行為⁉」  何故だか私は、イライラしている。私と出会う前のことなのに、理不尽に怒っている。 「ソウンさんの浮気者」  ちょっと意地悪言いたくなって放った言葉は、ソウンさんの顔を絶望に変えた。 「じゃあ、私も、ちょっと類似行為を……」  そんな気は無かったけど、悔しくて立ち上がったら、思いのほか強い力で引かれて、ソウンさんの太股の上に戻された。 「殺すぞ……その雄を」 出た、唐突なバイオレンス! ソウンさんは冗談を言うタイプじゃ無いから、なおのこと怖い。 「じゃあ、私もソウンさんの相手をバキーンしますよ」  拳を握って、キリッとした顔でソウンさんを睨んだ。 「……」  ソウンさんが真顔停止中だ。きっと私じゃ勝てないとか思っているのだろう。私もそう思う。 「まぁ、しょうがないので、私はソウンさんで類似行為することにします」 「ノエ?」 「良いですか、ソウンさんは勝手に動くの禁止ですよ! 私の命令は絶対です!」  ソウンさんの前に立って、ソウンさんの薄い頬のお肉を掴んだ。 「お返事は?」 「ああ」  仕方ないな、と苦笑するソウンさんが素敵すぎて有罪だ。ドキドキする。  私が今から、この人を……好き勝手、あれや、これやするの⁉  声にならない叫び声を上げたくなった。それを我慢する為に、ソウンさんの大きな手をギュッと掴んだ。傷だらけで硬い手だ。でも爪は綺麗に切りそろえられている。顔に近づけて、真剣に眺めた。 「爪すら全然違いますよね。厚くて硬いです」 「君のが、薄くて柔らか過ぎるんだ……ノエが爪を切っているのを見るのが怖い」 「ええ~、大丈夫ですよ。あれです、柔らかい方が強いとかもあるじゃないですか、ふやふにゃで。あっ、ほら……ソウンさんのお胸、ふにゃふにゃです」  私は、ソウンさんの胸に手を置いた。力の入っていない筋肉は意外と柔らかくて、とても魅惑の触り心地だ。 「ふふふ」  ニヤニヤ笑いながら胸を揉む私は、もしかしたら、変態かも知れない。  ソウンさんの胸、二の腕、お腹をモミモミした。 「へへへ……ちょっと失礼しますね」  ペラっとTシャツを捲ると、バッキバキの腹筋が現れた。更に上げていくと、控えめな乳首を発見した。思わず、じーっと魅入ってしまう。  触るべきか、否か。乳首って……お胸って、男の人も気持ち良いのだろうか?  いや、そもそも、私はどうなのかな? 「ソウンさん、お胸は、どうしたら気持ち良くなるものですか?」 「……失礼する」  ソウンさんの手が、服の上から私の胸に添えられた。真似して私もソウンさんの胸に手を置いた。 「ソウンさん……なんか、既に、くすぐったいっていうか……」  意識してしまって、すでに乳首がナイトブラに触れる感覚が、いつもと違う。 「ノエ……」  ソウンさんの精悍なお顔が近づいて来て、唇が重なる頃には、ソファの上に押し倒されていた。 「あっ……あれ……んっ……」  胸に手を当てていたはずなのに、いつのまにか、私の手はソウンさんの肩に添えられている。ソウンさんの手が、ふわふわのワンピースの裾から、入って来た。 「こしょばゆい」  私が笑っていると、ソウンさんは優しい顔で微笑んで、顔中にキスを降らせた。  駄目。すごい、幸せかも。  そんなことを考えてたら、ソウンさんの手は、私の胸に直接触れてきた。 「ふぁあ」  ナイトブラの緩さが、ソウンさんの大きな手の侵入を許してしまっている。想像よりも、ずっと優しく触れられて、私の胸の凝りはツンと尖って、下半身と共鳴しだした。 「ソ……ソウンさん!」  初めての感覚に逃げ出したくなった私は、ソウンさんを押しのけようと腕に力を入れた。  でも、ソウンさんは、ピクリともしない。  圧倒的な体格差と力の差に焦って口が滑った。 「ソウンさん、お座り!」 「……」  凄く険しい顔をしたソウンさんが、ノロノロと私の上からどいて、床に正座をして座った。
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