今後の生活

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今後の生活

「ま……眩しい」  太陽の光を避けるように、明るい方から顔を背けて目を開けた。  真っ白なシーツに広いベッド。半分上がっているブラウンのブラインド。  昨日、乗っ取ってしまったソウンさんの部屋だ。  ソウンさんが「君がこの部屋を使ってくれ」と言って、クローゼットから大きな寝袋を取り出したから「私がそれで!」と言ったのに、自分は、十年に及ぶ軍隊生活でコンクリートの上でもジャングルでも快適に眠れる、と頑なに拒否されてしまった。 (本当に……ソウンさんが良い人過ぎて、心配です) 「ぷっくりしてる」  起き上がって、地味に痛い膝を見たら、テープの中が白いモコモコでぷっくりしていた。なんとなく興味をひかれて、むにゅむにゅと押す指がとまらない。  コンコン  そんな事をしていたら、部屋のドアがノックされた。 「はっ!はい!」  慌てて起き上がって、ベッドから立ち上がる。痛いことは痛いけど、昨日よりは体重がかけられる。 「入るぞ」 「はい!」  なぜだか落ち着かない。  何度もボサボサになった髪を撫でつけて引っ張ってしまう。今までの自分は何故、長めのショートボブにしたのだろう?  寝癖が……爆発してます。 「大丈夫か?」  部屋に入ってきたソウンさんが、私の隣に立って腰を支えた。 (ソ…ソウンさんは、軍人さん!きっと人助けする事が多くて、このナチュラルな紳士的振る舞いは、職業病!ドキドキするな、心臓!)  それにしても、ソウンさんと私は、身長差と体格差が大きい。腰を支えられるだけで、足が浮きそう。 「お陰様で、ぐっすり眠って足も大分良い感じです」  恥ずかしいから、やんわりとソウンさんの腕をどかした。 「そうか。でも無理をするな。今日は夕方、アイツが診察にくる」 「それは、お断りは……」  こんなかすり傷の為に、お忙しいお医者さんを呼び出すなんて気が引ける。お断りしたいという思いを込めてソウンさんの目を覗き込んだ。 「駄目だ」  ソウンさんがきっぱりと言った。ソウンさんの目力と威圧感の前に、ぐうの音も出ない。 「朝食にしよう」  居候のくせに、私がぐーすか寝ている間に、ソウンさんは早朝の走り込みをして、鍛錬をこなし、朝市で朝食を買ってきてくれたうえに、シャワーまで浴びたようだった。 「あ、明日からは、私が朝食などを!」  用意しますと言ったのだけど、朝市はとっても美味しくて安くて、ずっと同じお店で買っているらしく、気に入っていると言われれば、もう何も言えない。  確かに朝市のお粥、すごく、すごく美味しくて「駄目です、これ絶対勝てません。すっごく美味しいです!」とがっつく私を、ソウンさんが笑っていた。  じゃあ、せめてお掃除とかと思って朝食の時に聞いたのだけど「寝室とリビングは好きにすごして貰って良いが、もう一室は武器だとか色々置いてあるから危ないから入らないで欲しい」と言われ、掃除の範囲も狭まった。  とにかく、早く職を見つける必要があると心に刻んだ 「何もしなくていい、昼食は買って冷蔵庫に入れて置いた。安静にしていろ」  軍服で通勤するのかと思ったら、緊急時じゃないから普段着らしく、ソウンさんは、Tシャツにポケットの多いカーゴパンツ姿だった。太ももの筋肉が発達しすぎていて、パッツリしている。持ち上げるときに腕の筋肉がモリっとしたあのリュックはどれだけ物が入っているのだろう? 「重ね重ね、申し訳ありません。ありがとうございます!ソウンさんのこのご自宅は、私がしっかり警備しておきます!」  見よう見まねで、右手を挙げて敬礼した。 「するな。アイツの診察以外は、絶対に開けるな」 「はい!中佐!」 「ソウンだ」 「はい、ソウンさん。お気を付けていってきてください」 「ああ、ノエは……できるだけ動くな」  玄関から出て行くソウンさんは、心配そうに何度も振り返り、外に出ると一瞬の隙もあたえず外から家の鍵を掛けた。  ソウンさんが出かけ、やることの無い私は、この世界について勉強しようと、テレビをつけた。 「今日の、獣人占い……最強の運勢は鹿獣人……」  やっぱり、獣人って冗談じゃ無いんだな、と再確認した。でも、テレビに出ている人達は、みんな外見は人間と変わりが無い。  猫耳とか尻尾とか生えていない。でも、しばらくニュースとか情報番組を見ていたら、スタジオの外の様子みたないのが映ったときに、お一人だけ動物みたいなお耳の人がちらっと映った。 「それにしても……これからの人生、不安しか無いよぉ」  記憶も無い。  戸籍も無い。  普通じゃ無い。  三重苦だ。  幸いな事に、良い人に拾って貰ってなんとか生きながらえているけど。あるかな、私を雇ってくれる誰でも出来そうな仕事って。体力勝負みたいな仕事は、無理そう。だって、更紗先生もテレビに出ている女性達も、身長高めでしっかりした健康的美人だし、男性に至っては、全員筋肉質だった。 「もう、いっそのこと……人間を売りにして、見世物に……」  頭の中に、人間でーす、とスマホに向かって自撮りする自分が浮かんで、気持ち悪くてひいた。 「……ない。あっ!更紗先生の研究の被験者かつ、ハウスキーパーとか?」  更紗先生のご自宅は、綺麗だったけど……やや荒れていた。忙しさが語られるような、シンクの中の食器、ソファに投げて積まれていた洋服。買ったか貰ったけど開けてないような段ボールの数々。  何もないソウンさんのお部屋とは違った。 「なんとなく、料理はイメージできるし出来る気がする」  さっき見ていたお料理番組も、次の工程が出る前に予想できたし。記憶を失っても、そういうのは覚えているものなんだな、と感動した。
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