最初のラブレター

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「だって好きなんだもん」  友達の質問に、私は駄々っ子のような返事をする。 「なんでアレがいいの? 背も高くない、成績イマイチ、スポーツマンでもない。顔もよくないし、ついでに音痴だよ?」  ひどい言われようだ。  中学校男子のモテ要素は、顔、運動神経、頭脳、優しさ、の順かもしれないけどさぁっ。  でも私は知ってる。  彼はとても頑張り屋さんなのだ。  お昼休みのサッカー。全然ボールに触れないのに、いつも一生懸命走ってる。そういうところが好きなんだよね。 「じゃあさ、告白するの?」 「ええっ?」  考えてもいなかった。  でも、うん、好きって伝えたいかも…、  私は彼の誕生日にプレゼントを渡す計画を立てた。  そのプレゼントと一緒に、手紙も渡す! 人生初のラブレターを書く! 『サッカーは上手くないけど、一生懸命で、』 「……違う」  丸めて、捨てる。 『あなたの笑った顔が、』 「違う」 丸めて、捨てる。 『よくわかんないけど好きになりました』 「正直すぎる」  丸めて、捨てる。 『いつの間にか目で追っている私がいて、』 「うーん」  丸めて、捨てる。 『言葉はいつだって何かが足らないから』 「…え~?」  丸めて、捨てる。 『この想いに名前なんてなくて、ただ、あなたのことが』 「……」  丸めて、捨てる。 『私の心に生まれた淡い恋心は、いつしか海より深く』  丸めて、捨てる。 『遠くで鐘の音が鳴るのは、あなたを思う私の気持ちが揺れるから』  丸めて、捨てる。 『モノクロの世界に虹色の光が差したのは、あなたが絵具で描いた証拠』  丸めて、捨てる。 『月の光が照らし出すこの美しい世界の真ん中で』  丸めて、捨てる。  振り返ると、ごみ箱に入りきらないほどの紙屑が転がっている。  一枚ずつ広げて、読む。 ***** 「馬鹿なんじゃないっ、私?!」  あまりの恥ずかしさに、震える。  全部破り捨てた。  散らばる、花吹雪。  カードに『好きです』とだけ書いて、制服のポケットに入れた。 了
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加