1人が本棚に入れています
本棚に追加
目覚めても、悪夢は終わっていなかった。
(う”うっ、ベタベタで気持ち悪い…)
服の残骸を纏う体は、土や毒液が混ざり合ってドロドロに汚れている。
そして僕は変わらず蔓に囚われていた。
魔物は少し離れた所で目を閉じていた。
その姿は遊び疲れた子どもが眠っているみたいだった。
(蔓もだいぶ緩んでるけど…)
だが蔓を振り払って逃げる体力も気力も、もう残っていない。
粉雪のように降り積もる絶望に自我が覆われていく中、ぼんやりと思う。
(…本当はもっと早くこうなっていたかもな…)
今までは運が良かっただけ。
脅威をはねのける力のない者は、虫けらのように弄ばれる。
それが摂理なのだろう。
「…っ……
…!!ッ」
気配を感じたのだろうか。
魔物がふるふると瞼を持ち上げ、あのぞっとするほど鮮やかな瞳をのぞかせた。
そして目を覚ました僕を見つけると、唇の端をつり上げて近づいてきた。
(また…ずっと溺れ続けるような時間が始まるのか…)
呼吸が早くなり、体が震える。
「ッ…ハッ…ハッ”…」
(召喚契約を結んでれば、こんな目に合わなかったのかな…)
迫りくる蹂躙に怖気づいた心は、今更後悔し出した。
(…いやダメだ。アレは絶対にダメだ)
多くの人を魔物の餌にするような選択を、選ぶ訳にはいかなかった。
だから、こうなったのも仕方ない…
「っ”っ………、」
ああ、でも。
どうせ喰われるのなら――
諦めて目を閉じて、僕は早く終わることを願った。
自分はもう、それしかできそうになかったから。
最初のコメントを投稿しよう!