召喚術の授業は××な魔物と、 …過去を引きずる人のためのヒーリングストーリー…

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グシャ、グシャ… 不気味な音が響いていた。 それは何かを噛み潰すような、咀嚼音に似ていた。 おぼろげな意識の中で、嫌な音だと思った。 と同時に、蔓が巻き付く感触がなくなっていることに気づく。 体も少し動かせそうだ。 ゆっくりと顔を動かし、あたりの様子を伺った。 「…ヒッ!?!」 花が、花だった魔物同士が、共食いをしていた。 成長しきったバナナの木位あった花は、さらに二回りは大きくなっていた。 姿も木の根で二足歩行をする形へ変化し、トレントに似ている。 それが5体いたが、目の前で4体となった。 一際大きく成長した1体が、逃げ惑う他の個体を捕らえては食べていたからだ。 (見てる場合じゃないだろっ!今のうちに逃げないとっ…!!) しかし体はまだ完全には毒が抜けていない状態だった。 立てはするだろうが、歩くのはやっとだろう。 僕は仕方なく、ほふく前進のような形で温室の出口を目指した。 移動速度はのろいが、花達の気は引きにくいはずだ。 (あと3体の魔物が咀嚼されたら…) 残った1体の次の獲物となるのは……自分だ。 後ろから聞こえる、捕食されている魔物の悲鳴が僕を急かす。 (早くっ…早く…っ!) しかし焦る気持ちとは裏腹に体の操作は覚束ない。 自分の体が一部スライム化しているような感覚も残っていた。 (はっ、早く…っ!お願いだから、もう少し早く動いてくれよっ…!!) 来た時は数十歩ほどの距離しかなかったはずなのに、やけに遠かった。 「はっ…はぁ…っ、…はっ…」 なんとか半分までは来ただろうか。 背後で響く、咀嚼音が少し遠のいたように感じた。 (あと、5メートルくらいか…?) 後ろを振り返る余裕も勇気もない僕は、ひたすら温室の出口を見据えて這い進む。 (もう少し、もう少しだ…) 出口まで、あと1メートルもない。 手を伸ばせば、出口に触れる… グイッ 「っ!!?」 右足あたりに何かが巻き付いた。 続いて左足、そこからさらに腰にも同様に巻き付かれる。 前に進めなくなったと思った、 次の瞬間。 僕は宙に浮いていた。 逆さまになった視界に あの花が、花だった魔物が映った。 ヤシの木程あった大きさは、共食いによって逆に縮んでいた。 だが、感じる脅威は前の比ではない。 足腰に続き腕や上半身にも絡みついてきた枝によって、逆さまでなくなった景色。 それによって魔物の変化をさらに詳しく見ることができた。 樹木の巨人のようだった魔物は、人に近い姿になっていた。 身長だけで言えば、僕より頭一つ分は小さい。 長くうねるエメラルドグリーンの髪は、途中から細い蔓に変わっている。 その所々に咲いた花が髪飾りのようで可愛らしいが、自在に動く様には恐怖を煽られる。 蔓や花を身に纏う上半身は完全に人のそれだった。 長い髪も相まって少女のような印象を受けるが、その下半身は無数の木の根に変化していた。 今、僕を捕えて持ち上げている枝もその一つだ。 こうして魔物の全身を観察できるのは、不気味なほどゆっくりと引き寄せられているからだった。 (これは…成長や変化ではなく、もはや進化だ……) 魔物の凄まじい変貌に、僕は自分の魔力の特殊性を認めせざるえなかった。 体感では、魔力は総量の4分の1も取られてない。 この花の魔物が、さらに僕の魔力を吸い取ったら… 一体…どうなるんだ…… 愕然とする中、僕はとうとう花だった魔物の目前に突き出された。 アイスグリーン色の滑らかな肌と、可愛らしい顔立ち。 ぱっちりとした目にはまる、無邪気さが浮かぶ紅色の瞳。 「ッ!、ひっ…」 その紅と目が合って、背筋に冷や水を浴びせられたかのように怖気がたった。 そこに加減を知らない幼子の、残酷さを感じたためだ。 花の魔物は僕をニタリと覗き込んで、”言った”。 "スごくおいしいのニ、もう、タべれない…  でも、またタべるから…  ニゲルナ" テレパシーのようなメッセージを受け取った直後。 「っう"ぅッ!!?」 甘い毒を吹きかけられ、僕は意識を失った。
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