召喚術の授業は××な魔物と、 …過去を引きずる人のためのヒーリングストーリー…

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「何も…僕は本当に、何もしてないんです…」 教科書はおろか、先生達すら聞いたこともない現象。 安全確認のため、関係者へ聞き取りや残留魔力の調査が行われた。 当事者の僕には、魔力検査をはじめ多方面の検査や聴取が行われた。 しかし、これといった原因は見つからなかった。 結局、一時的に門のリンクや供給魔力の状態が不安定になったことが原因、とされた。 一時的な理由―― 特に思春期に突発する魔力の不安定さは、広く知られた現象だった。 (でも…) 魔力の状態を整えるのは、苦手ではなかった。 確かに召喚に臨んだ時は多少のワクワクや心配はあった。 だが自分は、召喚時に精神や魔力の不安定さを感じてはいなかった。 (きっと、運が悪かったんだ。色々な条件が重なってしまったとか…) だからあれは、僕のせいじゃない。 どうしようもない事だったんだ… 僕は腑に落ちない気持ちを抱えていたくせに、その時、安易に自分を納得させてしまった。 安全確認後、僕は再び召喚術の授業に参加した。 召喚室に現れた僕を奇異な目で見てくる人もいた。 僕自身でさえ、召喚を行って本当に大丈夫なのか不安もあった。 「…フー……」 深く呼吸して、余計な考えを振り払う。 内側が、精神と魔力が落ち着いていくのを確認しながら、自分に言い聞かせた。 大丈夫、前のは偶然起きてしまっただけ。 だから今日、僕が魔物の命を奪うことはない… 二回目の召喚対象は前回より一回り大きい、”灰苔リス”という魔物だった。 手順通りに門を作り繋げ、召喚を行う。 魔方陣に魔力を送る際は、いつも以上に安定させることを心がけた。 結果、無事魔物は召喚され、方陣内にはリスに似た魔物が現れてくれた。 (あぁ、よかった…!!) やっぱり、前のは一時的なものだったんだ。 ブク 前回のように召喚した魔物がいきなり破裂することはなかった。 だから、今回は大丈夫だと思った。 それなのに。 ブクッ、ブクブクッ!ブクブクブク…! 内側から無理やり空気を詰められているみたいに、歪に膨張し始めた魔物。 先程までこちらをぼんやりと見上げていた、つぶらな瞳。 今はそれが苦しげに歪み、あっという間に膨らみ続ける肉に埋もれ、 パァンッ! え………、 そんな……………、なんで………? 慌てる先生。 騒ぎ出す生徒。 再び、騒然となった召喚室内。 その時の僕はそれらが、 どこか遠い世界の出来事のようにしか感じられなかった。
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