召喚術の授業は××な魔物と、 …過去を引きずる人のためのヒーリングストーリー…

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最初に魔物が破裂した時も、陰でコソコソ言われていた。 二回目となってからは、あからさまに疑惑や嫌悪を示された。 ”またあいつ殺したのかよ!?” ”二回連続って…偶然じゃないだろ。あいつ、何かしてるんじゃねえの?” ”こ、怖ッ!あんな事する人が、こ、こんな近くにいたとは…” ”一緒に授業受けるとか視界に入るのも無理なんだけど。学校の方で退学にでもしてくれよ” ”むしろ自主退学しろって、お願いだからさぁ…” 遠巻きに向けられる異常者や犯罪者を見るような、目。 「っっ”……」 元々僕は、人と話したり関わりを持つ事が苦手だった。 クラスメイトなど周囲と友好な関係を作れていなかったことも、拍車をかけたのだと思う。 そうして僕は、クラスはおろか学校中から孤立した。 正直、校内での冷遇には理不尽さを覚えていた。 自分は何もしてないのに。あれは偶然で一時的な事象だったはずなのに。 (なのに…なんであんな目で見られないといけないんだ…ッ?!  っ…どうして僕ばっかり…ッ!!) ――嘘だッッ!!! ふと、見たことがない色で自分を強く睨みつけた目が脳裏に蘇った。 「…っ……、…………、」 (………他の人からすれば、狂人の類が野放しで生活空間にいる状況、かな…) それから僕は努めて冷静に振舞おうとした。 幸いなことに皆、僕を心底不気味がっていたので暴行や嫌がらせは受けなかった。 周りに合わせて自分からも距離を置いた。 そうして周囲に不安や不快感を与えないよう心がけた。 それに人の目よりずっと、不安なことがあった。 ――周りが言うように、自分が無意識に何かしていたのではないか…? もし、そうだったら? 自分のせいで、魔物達が破裂したのだとしたら…? 「っ、」 ぃや、だ、…嫌だっそんなの…だって、それじゃ……… 「…っ”、………」 僕が、彼らを死なせた? いや違う、 ……………殺した? (…ッ、う”っ、ッあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーー!!!) ごめん、ごめんなさい。 殺してしまってごめんなさい。 ほんとにごめんなさい、きて、来てくれたのに… あんなっ…、あんなひどいことをしてごめんなさい。 ごめんなさい… ごめんなさいッ………!!! パリンッ!! 揺らぎ漏れ出た魔力によって、安眠剤を飲む際に使ったコップが砕けていた。 「……」 ――ッガシャン! バリンッ!! 扉の外で響いた、陶器の割れた音。息をのむような短い悲鳴。静かに咎める声。 「だってなんでッ!?なんで兄ちゃんばっかりッ!!ずるいよ……ッ”」 それに続いたのは、糾弾するようでいて悲しみが詰まった痛ましい叫び。 自分を責め立てるような音を遮るため、ドアに背を向けベッドの陰で毛布を被る。 それから毛布と共に抱えてきた魔界図鑑を開いた。 魔素と魔力が満ちる、こちらとは違う世界。 日々揺れ動き、形を変える大地。 時に地に潜り、時に天を翔ける魔力の河。 そのほとりに広がる湿原には、白緑色の巨木群がそびえ立つ。 さらに魔界には異なる空間へ繋がる”歪み穴”なるものも存在する。 うっかり踏み込んでしまったら、灼熱の海、白い魔素だけの砂漠、浮雲の中の森…どこへ飛ばされるか分からない。 そして、そんな想像もつかない所で暮らす多種多様な魔物達。 過酷な環境に耐える生体機能を持つ種。 環境の変化に合わせて自身を絶えず変化させる種。 魔力の流れを読むことに長け、暮らしやすい場所を転々とする種。 強い魔力で生活範囲を自身に合うように変えてしまう種… 中には魔力によって空間が歪みやすい事を利用し、亜空間を生み出すものもいるという。 (僕も亜空間?を創れたらなぁ…いや歪み穴で飛ぶのもいいか) 灼熱の海に飛ばされるのは嫌だけど、砂漠は静かそうだ。 こっちの砂漠には意外と生き物がいるけど、魔界には全然いないのかな? ここではない所、未知の世界や存在へひたすら思いを馳せること。 それが子どもだった僕が見つけた、その時自分にできることであり支えだった。 「…っ、…ハァッハァ…ッ、ハァッ、ハァッー……」 (っ、落ち着け、) 精神のゆらぎは、魔力の状態に影響を及ぼす。 だから僕達魔術学校の生徒は精神を安定させたり、精神と魔力の状態を切り離す訓練を受けている。 内側を落ち着かせるため、深呼吸をくり返した。 「…フー、……スー…、……、……。」 (…なぜかは分からないけど、僕が召喚すると魔物は死んでしまうのかもしれない) 自分にとって魔物や魔界はずっと憧れてきた存在で、それ自体を心の支えにしてきた。 「っ、…、……………。」 でももう、その憧れも手放すしかないのだろう。
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