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「あと1回、1回だけ……やってみてくれませんか?」
2回目の惨劇の後、再び原因究明の調査が行われようとしていた。
その調査には、外部研究者達の前で僕が召喚を行うことも含まれていた。
でも僕はそれを断ろうとした。
(魔物を殺さずに済むなら、もう僕は召喚もできなくていい…)
「…y君は魔物が好きでしょう?
座学だってあんなに熱心だったじゃないか…
…先生は凄くもったいないと思うんです。
こんなにも早く、君の可能性の一つが閉じるなんて……」
召喚術の担当教諭は、学校中からサイコ扱いをされている僕にも優しく語りかけてくれた。
眼鏡をかけた顔立ちや額にかかる髪と同じで、物腰の柔らかい先生。
「それに…
ごめんね、ここからは先生や学校側の都合も入る話だけど…」
学校は例の現象は原因不明のため、現時点では僕以外の人間でも起こる、または伝播する可能性もあると見ているそうだ。
「y君の時とは逆に、人間側に”あれ”が起こったら……
そんな事は何としても防がないといけないんです。」
生徒の安全を守るためにも、詳しい原因調査は必須。
それまでは校内の召喚行為は全て、制限されることになったそうだ。
(僕が拒否し続ければ、先生にも学校にも迷惑がかかる…)
召喚術は人間にはない大きな力を使うことができる一方で、危険を伴う術でもある。
もう状況は、個人の問題には収まらなくなったのだ。
「…っ………………」
また魔物を殺したくない。
でも自分一人の都合を押し通し、多くの人に影響を負担を与え続ける訳にだって…いかないだろう。
(仕方ないんだ…これは、どうしようもない事なんだ…
それに、)
どうしようもない事が降りかかることを、僕は前から知ってたじゃないか。
「……」
魔物が死ぬかもしれないのに、再び召喚することを選んだ自分。
そんな僕を責めるかのように、脳裏に青い蝶や灰緑色のリスの姿が蘇る。
彼らの最後の姿も。
もう彼らは存在しない。
だが僕が一番気にしなければいけなかったのは、自分が殺した彼らではないのか?
「ッッ”………」
そうやって思い出す度、自分が情けなくて消えたくなった。
辛くて苦しくて、全てなかった事にしてしまいたかった。
彼らのことを考えずに済むよう、逃げたかった。
(僕が今できること、すべきことは何だ…?)
原因だろうと言われた「供給魔力が不安定になること」を防ごうと、精神統一や魔力を安定させる訓練に精を出した。
1回目の後から力を入れてきたが、さらに訓練の時間を増やした。
それに召喚魔術を素早く取り消す練習も加えた。
魔物召喚に近い、物を転送する魔術で代用し必死に解消魔術を練習した。
とにかく早く確実に、異変が現れたらすぐに召喚を取り消せるように。
僕はできることに意識を向け、ひたすらそれに没頭した。
魔物を殺した罪悪感やどうしようもない現実から目を背けるように。
それが今までも、自分の心を守る手段だったからだ。
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