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店内では、大野が残された女性と店主の男に事の顛末を説明している最中だった。
「ボストンクーラーというカクテルは、本来黄色い色をしたカクテルです。しかし、数分後に私達が貴女のグラスを見た時、貴女の飲んでいたカクテルは緑色へと変色していました」
これがどういう意味を持つのか?
女性は時間の経過とともに色が変わっただけではないかと提案したが、これを退けたのはBARの店主だった。
ボストンクーラーが時間の経過で色が変わる所など、今まで一度も見たことがない。
店主ははっきりとそう証言すると、大野もその店主の意見に同意し、その後を続ける。
「最近の睡眠薬は、性犯罪防止のために着色されている物が多いのです。その睡眠薬が飲み物に混ぜられた時、睡眠薬についていた色の成分がお酒の中に溶け出し、ドリンクの色が変わる。私が一緒に連れていた部下は、いち早くその色の変化に気が付き、私に目配せをしました。私が派手によろけて彼にカクテルをかけたのは、物理的な貴女との距離を稼ぐためと、証拠を見せろと言われた時に、そのシャツこそが証拠になると知らしめるためです」
大野の淡々とした説明に、その場にいた他の2名は息を飲んだが、店主はある事に気が付くと、はっと声を上げた。
「そうか! ドリンクは彼の洋服にかかっている訳だから、その服を調べれば、本来のドリンクの成分と睡眠薬の成分が検出されると言う事か!」
その店主の閃きを満足げな顔で肯定した大野は、残された女性の分も含めて店主に会計を促した。
「そんな!? 私の方が危機を救っていただいたのに、私が貴女達の分をお支払いします」
女性は慌てて大野の申し出を否定し、バッグの中から財布を引っ張り出そうと格闘している。
「確かに、我々は貴女の危機を救ったかもしれない。でも、貴女の楽しい筈の時間を奪ってしまったのも我々です。ですからもし、またこの店で会う事があったら、その時は親父2名の相手を少しばかりして頂くと言うことで、手を売って頂けませんか?」
大野は女性に対して穏やかにそう諭すと、女性も手にしていた財布をそっと鞄の中にしまって頷いた。
「ありがとう。では、本官は捜査がありますので」
大野はそう言って女性と店主にビシッと敬礼すると、少し照れたようにはにかみながら、店から出ていった。
その後の捜査で、逮捕された男のポケットからは、青い色をした睡眠薬の錠剤が、もう一粒発見されたそうだ。
※実際にお酒に睡眠薬を入れると、お酒の色は青く変わるそうです。
完
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