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馬車の中。
(天国、いや地獄かもしれない。やっぱり天国)
それほど酔っているわけではない妻は、宮城に緊張していたのかもしれない。肩にもたれかかると腕をぎゅっと抱き込んでいる。
離れていた時間を埋めるようにくっついてくる。猫みたいだ。
「姫、その、当たっているのですが」
胸が。
「知ってます」
知ってます!って。
そんな顔知らない!
なにこれ可愛い!
大人の男を揺さぶらないで!
「淋しかったんですか?」
「子供じみていると思いますか?」
肩にぐりぐりと額を擦り付けている。
「思いませんよ。私もあなたにどれだけ会いたかったか」
パッと顔を上げたので口づけをすると、赤くなる。
「家はこんなに遠かったのかな。眠るかもしれないからゆっくり進んでくれと言ってしまった」
「花火を見ました。綺麗でした、でも」
「姫が喜んでくれたのなら良かった。」
「妃様たちと見ました。皆さん驚かれていました。でも、旦那さまが……火薬がある場所は危ないと聞いたので、心配でした。
今度は、離れたところから一緒に見たいです」
「そうだな」
嫁が可愛い。
なんであんなに結婚が面倒だったんだろう。
でも独身の時は結婚して良かったからお前も、と勧められるのが心底嫌だった。善意な分、断りにくいから。
やっぱり最適な時期と相手があるのかもしれない。
「旦那さま、考え事してますか?お仕事ですか」
「愛しい妻と結婚できて幸せです」
ポカポカと胸を叩かれた。
邸についたら湯の用意がしてあって、別々に連れていかれた。
「妻は私が洗うから……」
「旦那さま、焦げ臭いです。そんな匂いで奥様に近づいてはいけません。」
「そうだな!可及的速やかに湯を頼む!洗って着替えて妻を待つ!
髪を拭くのは私がする!」
「ダメです!」
「じゃあ、私は何をすれば……。頭脳と地位と仕事しか取り柄のない男なのが不甲斐ない」
「充分です」
「愛情の重すぎる男性は飽きられますよ」
「ガツガツするのはお止めください」
いい使用人揃いである。
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