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「王、今よろしいでしょうか」
「おおご苦労だった。見事であった。職人たちに褒賞をやろう」
「それは幸いに存じます。皆喜ぶでしょう。それはさておき私、しばらく謹慎しますので」
「お前は何を言っている?謹慎だと?理由は何だ」
「……何でも良いじゃないですか。適当にでっち上げてください。あ、さっき不敬な発言をしました。そこの武官が証人です。」
「お前の不敬なんぞ常だ。認めん。普段の仕事に褒美をやってもいい。金でも酒でも女でも」
「全部いらないので休暇をください。」
「そうか、自宅でゆっくりしたいということだな。
確かに少し頼りすぎていたかも知れない。自宅で休むが良い。」
「ありがとうございます」
「よいよい。さ、仕事の事は忘れて自宅から一歩も出ずに謹慎するがいい。」
「……やけにすんなり帰しますね。
おかしい。」
宰相は宴の様子をみる。
妃の姿がない。
あと葡萄酒がある。
これは妻の国の交易品。
「妻の国からの使者がいますね?」
「いたような気もするな」
「使者だけでなく妻も呼ばれて来たのですか」
王はにやにやしている。
「謹慎するんだろう、早く帰れ」
「新婚で嫁もいない家に帰って何が楽しいんですか!」
王と宰相の会話の行方をはらはらしながら見守っていた者は、安堵した。
宰相も人間だったんだ……
それほど、結婚前の宰相は仕事しかしない厳しい印象だった。
「申し上げます。王妃様から言伝てです。宰相様が戻られたら来て頂きたいと。奥様がお酒を召し上がり、その、少し酔いが進まれて」
「妻が?酒に弱くないはずですが……」
「容海妃さまの国からのお酒を王妃さま、妃さま方と楽しまれていました。」
「場所は」
「貴賓室です」
「御前失礼致します」
「私も見に行くとしよう」
「酔った妻を見せるわけにいきません。」
「妃たちも少なからず酔っているだろう。お互い様ではないか」
「畏れながら、愛情を分散して受けてらっしゃる妃様たちと、一身に愛情を受けている深窓の我が妻とでは酔った姿の貴重さが違いますので」
「全然畏れてないじゃないか!不敬だぞ」
競うように廊下を小走りで二人は行く。
「中の皆様は扇やベールでお顔を隠されていますので」
扉の前で侍女がいう。
「妻しか見ないので必要ありません」
「宰相殿、申し訳ありません。奥方が……」
「私がお酒を薦めたのです。罰は私に」
一人の妃が跪く。
「姫、大丈夫ですか?」
一目散に妻のところに駆け寄り手を握り声をかける。
うとうととしていたのか、長い睫が二、三回、パチパチと星のような瞳に影を踊らせる
「あら、旦那さまだわ、お仕事終わられたのですか」
「はい。全部終わりました」
「しばらくお休みですか?」
「ずっと休みましょうか」
「ふふ、それはダメです」
他のものに見えないように抱えて頬擦りしている。
「王妃、あれは誰だ。」
王が妃たちに呟く
「宰相さまですわ。王がつまらない嫌がらせで働かせ過ぎたこの国一番の忠臣でしてよ」
「奥方様も健気でかわいらしい方ですのよ。奥様を淋しがらせたら、宰相様は亡命されるかもしれませんわ。」
「この国の情報をまるっと西域にくれてやるなんて、どれだけか愚かなことかお分かりですよねえ」
にっこりと笑う妃たち。
「宰相といえば国の要だというのに妻にあんなに溺れて大丈夫なのか」
「まあ。王も溺れてくださってもよろしいのよ?ただし、均等に全員を愛して国務もきっちり終えてからですけど。」
「あと、奥方様が西域の布を私たちにくださいましたの。
西域の踊り子の衣装も下さったのですが、とても刺激的で……。王に見ていただきたいので、今日はもう寝所で飲み直したいのですが……」
宰相は持ってこさせた水を妻に飲ませている。
「宰相、帰っても良いし部屋を用意することもできるがどうする」
「姫はどうしたい?」
「旦那さまと家に帰りたいです。」
ぎゅうぎゅう抱きついてくる妻を抱きあげ、扉を侍女に開けさせた。
「では陛下、しばらく休みます!」
「あいつのあの甘い声なんなんだ!人が変わりすぎだろう。元はといえば私に来た話だというのに、感謝が足りないと思わないか?」
「思いません」
妃は全員、頷いた。
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