逢いたい人はあなただけ

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 厚いガラスで仕切られた副調整室からスタジオを見守りながらスタッフが小声で話してる。 「しかし プロデューサーの村上さんも物好きやねぇ。こんな 昭和っぽい 古い番組やりたがるなんてな」 「なんか 親を探す番組 好きらしいな。小さい時に両親に死に別れて、親戚の養子になったんやて聞いたことあるで」 「へえ、おぼっちゃまっぽい感じやけど 意外と 苦労人なんかね」 「今日の親子の対面、うまいこと行くかな」 「取材班 頑張ってたし、うまくいくという自信があるから録画するんやろ」 「では本日の 会いたい人、うまく マッチングするでしょうか!」アップダウンが叫んだ。  スタジオ内のステージは、中央の壁で左右に2つの部屋に分けられていて、左側に熟年の婦人、右側に30代ぐらいの男性が1人 座っている。 「では、こちらの男性からお話しを伺っていきましょう。 お名前と、どちらから来られたのか教えてもらえますか?」 「堺市から来ました、秋谷タケシと申します」 「今は・・・ご家族は?」 「ボクは乳児院の玄関先に捨てられとったんです。その後 児童養護施設に移されて、小学校に入る前に養子縁組ってことで義理の両親に育てられました」 「ほーほー。その義理の両親さんとは・・・今は?」 「あんまり思い出したくないんですけど、色々あって、何べんも家出をくり返して、その度にみつけられ連れ戻されてましたなぁ」 「あぁ・・・辛いことがあったんでしょうねぇ・・・どんなことが・・・」 「いや、もう済んだことやから・・・話したくないです」 「元いた施設に戻ることはできんかったんですか?」 「児童相談所に逃げ込むことも考えたけど・・・義理の両親がねぇ・・・実の親が引き取りに来たら慰謝料やら養育費をたんまり要求したろうという、相談しているのを聞いてしもて・・・とにかく中学卒業するまで我慢しました」 「なんちゅう親や!他にも色々あったんやろねぇ・・・。そんな育て親のところでよう我慢しなはったなあ!」 「そんで中学校出てから、日頃親切に声かけてくれてたラーメン屋のおっちゃんのところに住み込みで働かしてもらっとります。成人式がすんでから、義理の両親とは縁を切りました」 「その後ずっと、おっちゃんと住んではるんですか?」 「はい、おっちゃんも身寄りのない人で、わしが働けんようになったらお前がこの店継いでくれ、て言うてくれてるんですわ」 「ええ人に出会えましたなぁ。そのおっちゃんのほうが義理の親御さんより、よっぽど良く育ててくれはりましたなぁ」 「はい、そう思ってます。おっちゃんには感謝しかありません」 「もし実のお母さんが、あなたに逢いたいと言うてきはったら、逢いたいですか?」 「そら、逢いたいです!ただ・・・今更おっちゃんと別れる気はないですけど」 「わかりました。ではあちらの、もしかしたらあなたのお母さんかも知れない方にお話しを聞いてきますね」
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