逢いたい人はあなただけ

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 中央の壁を隔てたところでは、もう一人の出演者が涙を拭きながら彼の話に耳を傾けていた。 「では、今回番組に応募してくださったこちらの方、お名前教えて貰えますか? 「はい、枚方市から参りました田口敏江と申します」 「お子さんを手放されたのには、やっぱり何か深いご事情がおありだったんでしょう?」 「はい、夫は土産物の郷土人形やらお盆なんかを彫る、彫刻職人だったのだけれど、子どもが生まれる直前に事故にあって、身体が不自由になってしもたんです。彫刻もでけへんようになって、仕事がなくなってしまいました。 赤ん坊が生まれても、私すぐから働かねばならんし、夫の介護もしなくてはならんし。私すっかりパニック状態でしたわ。 子供の世話もちゃんとできなくて、思いあまって乳児院の玄関先に 赤ん坊を置いてきてしもた。 乳児院の中は暖かくて幸せそうに見えたんです。その時は、そう見えたんです。 でも、振り返ってみたら、私あの時、頭がおかしかったんかもしれませんねぇ。 我が子を捨てるやなんて、そんなこと・・・普通の親にできることやありませんものねぇ・・・。 その後も、何べんも何べんも、ずっと引き取りたいと思っていたんですけど・・・働いても働いても貧しくて貧しくて・・・それよりはちゃんとした家庭に引き取られた方が幸せなんと違うかと思って・・・引き取ることができんかったんです。私ら、駆け落ち同然で一緒になったから、どっちの親元にも頼れへんかったしなぁ。 今は夫もリハビリ頑張って、だいぶ良くなって、土産物屋さんで 店番に雇ってもらえるようになってるんですけどね。 あの子にはほんまに申し訳ないことをしたと思ってます。 今更逢って欲しいなんて言えた義理やないんですけど、せめてあの子に謝ることができたらと・・・そない思って申し込ませてもらいました」 「いやー、わかりました。皆それぞれに辛い事情があったのですね」 司会のアップダウンは鼻水をたらしながら舞台中央に移動し、場面を繋いでいきます。 「いやー 施設言うところはね 個人のプライバシーはなかなかのことで 話してくれません。教えてくれません。 それで調査班も、えらい苦労したみたいですけれどもね、あの義理の親御さんがね、意外と助けになってくれたんですよ。 調査員があの義理の親御さんのところへ通い詰めましてね、仲良くなって 一緒に酒くみ交わすような仲にまでなって それでやっと色々・・・タケシさんという名前のことやら、どこの乳児院を経て 義両親さんのところに来たかいうのも、今どうしてはるのかっちゅうことも調べられましてね。 何人かの候補の方を追いかけてたんですけど、一番条件が合っている方に来て貰いました。 きっと間違いないと思いますよ。 じゃあ ご対面と行きましょうかね」
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