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「あ、忘れてた」
「忘れてたじゃないよ。穂波さん泣いてるわよ」
「あっははー!ま、良っか。それじゃあ私行くね、葉子ちゃん今度ご飯食べに行こうねぇ」
「うん、またね」
駆け足で穂波さんの元に行く萌子の後ろ姿に手を振っていると、穂波さんはぺこっと笑顔で頭を下げて萌子と一緒に車に乗って再び道路を走り出して行った。
「……変わらないなぁ、萌子は」
昔から明るくて聞き上手。
いつも彼氏が居て友達もいっぱいで毎日楽しそうで、1人で図書館にこもって勉強ばっかしてた私とは正反対。
だから一生友達になる事なんて無いと思ってたのに、彼氏にフラれたとこをたまたま見かけてしまって泣きつかれて話しを聞いてあげたのを機に仲良くなって親友になった。世の中って唐突に何が起こるか分からないから本当に不思議。
『…ねぇ、葉子ちゃんさ、今彼氏募集中だったりする?』
「………彼氏か…」
そういやずっと仕事ばっかでそんなの居なかったな…。考えたこともなかったし。
『葉ちゃん』
ずっとずっと遠くで聞こえる懐かしい声…「………違う」
考えた事がなかったわけじゃない。忘れてただけなんだ。ううん…忘れようとしてたんだ、ずっと…ずっと…。
『好きだよ、葉ちゃん』
あぁ ほら、萌子のせいで嫌なこと思い出しちゃったじゃない。どうしてくれるのよ。
今頃穂波さんとどこかでイチャイチャしてるであろう既にここにいない萌子を恨めしく思う。
すれ違うカップル達を横目に歩きながらふと立ち止まったショーウィンドウに映ったブッサイクなボロボロの自分を見てため息がこぼれた。
「ーやだな…私こんな疲れた顔してたっけ?」
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