1人が本棚に入れています
本棚に追加
祝賀会の宴。
老人や壮年の男たちは興奮し、出征する若者達を励ましていました。
「お国のために、立派に戦って来るんだぞ」
ぼくは、英語教師であることや結核で兵隊になれない後ろめたさから、目立たないようにしていました。
でも、宴の途中で便所に立った時、料亭の廊下で、権太という教え子に声をかけられました。
「先生、ちょっといいですか……」
権太は、思いつめた顔をしていました。
「こんなこと、先生にしか言えないんですけれど。
本当はぼく、兵隊になるのが、怖いんです」
権太は、小さな声で告白しました。
ぼくは驚きました。
「怖いのに、なぜ兵隊に志願したんだい」
「仕事がなくて。
兵隊は国の為に働けるし、階級が上がれば給金を家族に送れます。
でも、人を殺すのが怖いんです」
最初のコメントを投稿しよう!