戦時の作家

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祝賀会の宴。 老人や壮年の男たちは興奮し、出征する若者達を励ましていました。 「お国のために、立派に戦って来るんだぞ」  ぼくは、英語教師であることや結核で兵隊になれない後ろめたさから、目立たないようにしていました。 でも、宴の途中で便所に立った時、料亭の廊下で、権太という教え子に声をかけられました。 「先生、ちょっといいですか……」 権太は、思いつめた顔をしていました。 「こんなこと、先生にしか言えないんですけれど。 本当はぼく、兵隊になるのが、怖いんです」 権太は、小さな声で告白しました。 ぼくは驚きました。 「怖いのに、なぜ兵隊に志願したんだい」 「仕事がなくて。 兵隊は国の為に働けるし、階級が上がれば給金を家族に送れます。 でも、人を殺すのが怖いんです」
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