戦時の作家

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「権! そんなことを言ってはダメだ。 大義あるこの戦で敵を斃すことは人殺しではないのだよ」 ぼくは教鞭を取っている女学校でも生徒たちに『お国のために皆さんも頑張るのです』と言っています。 日本の兵隊は弱音を吐いてはいけないのです。 でも何より、権太の身が心配でした。 古今東西、どの軍隊であっても、戦場で厭戦的な言葉を発する兵隊は危険な存在であり、味方に縊り殺されることもあるからです。 「入営したら、決してそんなことを言ってはいけないよ。 戦では敵に背を向けてもいけない。 勇気がある者の方が臆病な者より、きっと生き延びることができるからね」 権太はハッとした表情から、すぐに笑顔を浮かべ、ぼくに言いました。 「先生。励ましてくださり、ありがとうございました」
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