戦時の作家

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ぼくは、鉄道や自動車、飛行機に、深い興味を持っていました。 扉が開きました。 ――おや、自動開閉か……。 東京の電車に、自動扉が導入されていることは知っていましたが、戦時の今、東海地方の鉄道まで普及し始めたことに、日本の国力の奥行きを実感しました。 良い気分になって開いたドアに一歩踏み出すと、周囲に人の、それも多くの気配を感じ、思わず乗降口をまたいで立ち止まりました。 すぐとなりから、一人の女性が、電車に乗り込みました。 ――誰もいなかったはずなのに! 背筋が一瞬寒くなりましたが、すぐに車内の造りに目を奪われました。 明るい蛍光灯に照らされる車内は、見慣れたボックス型のクロスシートが全くなく、車両両側に座席が一列に並ぶロングシートだったのです。
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