戦時の作家

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昭和十一年までぼくが生活していた東京の山手線であっても、クロスシートとロングシートの混在車両であり、総ロングシートは、雑誌に掲載されたニューヨークの地下鉄車両の写真で見たことがあるだけです。 ――総ロングシートは、車両に大量の人間を乗せるためのもの。 どうして、地方鉄道の終電車にこんな車両が走っているんだ? 明るいモダンな車両に不気味な疑問を感じたとき、女性と二人きりのはずなのに、目には見えない人々の気配を感じました。 自動で扉が閉まり、電車は発車しました。 ぼくと一緒に電車に乗り込んだ女性は、空いている座席に座ることも無く、スタンションポール(立ち乗り乗客用のつかみ棒)に身をもたれかけていました。 女性のとなりで吊り革につかまったぼくは、どうしても気になり、女性の顔をそっと見ました。
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