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『会いたいです』
最近、こんなのばっかり。どうせ私が女だからって、同じ趣味を通して繋がりたい、簡単に繋がれるんじゃね、とか思っちゃってるわけでしょう。一言言うなら、「そんなわけないだろう馬鹿野郎」だ。
私はアイドルグループである『龍神ガールズ』が好きなだけであって、龍神ガールズのファンは嫌い。シンプルにうるさいし、『龍神ガールズ』のことをまるで自分たちの私物みたいに扱うし。そんなだからドルオタが馬鹿にされるって、わかっていないところも嫌い。後、龍神ガールズを利用して女ファンに繋がろうとする精神も許せない。
『さくらたん推しなんですね! 俺もさくらたん好きです!」
突然来るダイレクトメール。だから何? って感じ。画面に向かって「知らねえよ」と思わず突っ込んじゃう。
『よかったら、さくらたんについて語り合いませんか?』
なんで見ず知らずのお前と語り合わなきゃいけないんだよ。さくらたんもお前に語られたくないよ、絶対に。
『ミレイさん、自撮り可愛いっすね!』
自撮りって、ただネイルの写真あげただけなんだけど。
『ミレイさん、顔とか絶対きれいですよね(ハートの絵文字×二)。スタイルも良さそう(よだれ)。会いたいなあ(ニコちゃんマーク)。会えませんか?』
どういうわけか、私に構ってくるアイドルオタクはみんな絵文字がうるさい。そこからして、気持ち悪さが滲み出ている。お風呂場の排水溝に溜まったヘドロを見ているようで、気分が悪くなる。
じゃあ、SNSなんて辞めればいいじゃん、と以前友人に言われたこともある。ただ、SNSを通じて会話している女性の龍神ガールズファンもいて、その辺りの線引きが難しい。全員が全員悪いやつとは限らない。それに、私が龍神ガールズのライブに行ったことをSNSに投稿すると、龍神ガールズのメンバーから『ありがとうございます!』と返信が来たりすることもある。そんな感謝の気持ちを読んだだけでこれからも生きようって思えるし、またライブに行きたいと未来に光が差すのだった。その手の承認欲求は、一度手にしてしまうと中毒性があるから簡単には止められない。
なんと表現すればいいか、天国と地獄とでも表現するべきか。私利私欲を満たすために私と繋がろうとするキモオタと、純粋に友達になりたいと思える仲間や、メンバーからの感謝の言葉。その両端を記すテキストに、私は毎日悩まされたり踊らされたりする。
『あなたになら話せるかもしれません。だから、一度お会いしたいです』
だからこんなメッセージが届いたときも、私は苦悩した。いつものパターンではないが、新手の繋がりたいオタクだろうか。しばらく無視していると、続いてメッセージが届いた。
『おそらく、あなたは落ち着いた女性だと思います』
たしかに、私は派手なタイプではない。SNSの投稿を見て判断したのだろうか。さらにメッセージは届く。
『僕より年上だと思います。そして、龍神ガールズに詳しい。だからこそ、あなたに相談したいです』
よく見ると、それらのメッセージはすべて敬語で、どこか距離を感じるような、だけど私にすがりたいような文章だった。他のオタクが発する色濃い欲が欠けているようにも見えて、心の底から懇願しているようにも見える。判断が難しいタイプだった。
ただ、ここまで見ず知らずの私を頼ろうとしているわけだから、きっと何かワケアリなのかもしれない。
考えた末、私は返信した。
『相談したいこととは何でしょうか?』
返信はすぐに届いた。
『龍神ガールズに所属している志賀咲さくらさんについてです。詳しい内容は、直接会ってお話ししたいです。僕は志賀咲さんの幼馴染みで、武田と申します』
志賀咲さくらは龍神ガールズの中でも中心人物で、いつでもセンターポジションで踊るなどトップクラスの人気があった。
彼女の幼馴染み。本当なら、たしかに会ってみたい。
まあ、一回くらい騙されてもいいか。
『わかりました。今週の土曜日なら空いていますけど、どうですか?』
『僕も学校が休みなので空いています』
『学生さんなんですね』
『はい。さくらとは小学校からの幼なじみです』
『ミレイさんは、東京が近いですか?』
『はい。東京に住んでいますよ。あきる野市って、東京でも西の方ですけど』
『わかりました。では、渋谷のハチ公前とかどうですか? すみません、僕はあまり東京に詳しくないもので』
『そうなんですね。いいですよ。何時にしますか?』
『そうですね、十時でも大丈夫ですか?』
『いいですよ』
『ありがとうございます。感謝します』
志賀咲さくらはたしか十七歳だから、彼も十七歳ということになる。二十五歳の私より八つも下。だが、対応などは他のオタクたちよりも断然丁寧だった。
『じゃあ、土曜日渋谷のハチ公前で待っていますね』
『ありがとうございます。おやすみなさい』
『おやすみなさい』
連絡を取り終えて、いったいどんな子なのか、私は想像してみた。多分『白いシャツを着て、髪を短く切り揃えた青年』だろう。きっと真面目な人であるに違いない。これでチャラチャラした金髪ピアスだったらちょっと幻滅するな、と一人で苦笑しつつ、私はまもなく就寝した。
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