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2144年8月、東京湾上空に巨大な円筒形の構造体が出現した。
前触れとなるような電磁波だとか重力波だとか、そういうものがあったのかどうか、俺は知らない。44年には中学生だった。7年も前のことだ。
ザ・ピラー。
半径2.7km、高さ90km、ケイ素化合物でできたその物体は、どういう原理によってか倒れもせず、じっと空に浮かんでいた。
秒速220メートルの速度で長軸を中心に回転するそれは中空であり、内側の領域に遠心力による疑似重力をもたらしていた。
独自の地質、独自の生態系がそこには広がっていた。その巨大円筒自体が炭素の代わりにケイ素からなるひとつの生命体であるという途方もない説もあった。
そうだとすれば、これは異星生命体とのファーストコンタクトということになる。
それはともかく、人類にとっては巨大なフロンティアの出現だった。科学者たちが色めき立ち、技術者たちが夢を描き、資本家たちが新たなビジネスの可能性を見た。
こうして2146年、第一次有人科学調査隊が派遣され、二週間後に消息を絶った。
第二次、第三次と次々に送り込まれた調査隊は、同様に短期間で姿を消し、国際企業連合は考え方を変えた。
貴重な科学者や技術者の浪費である。
そう気づいたのだ。
彼らは、科学調査協力事業者を広く募ることにした。
個人の資格で働く使い捨ての効く者たちに、ピラー内部での拠点の建設と防衛を任せたのだ。
個人事業者との自由契約であれば、労働条件を気にする必要はないし、死亡手当の心配をすることも要らない。多額の報酬を約束することになるが、死んだ者には支払う必要がない、というわけだ。
こうして、命の値段の軽い荒くれ者たちが世界から集まることになった。
そうだ。
俺も、そんな中の一人だった。
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