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これは予想の範疇なので風花は気にしなかった。
自己紹介が済んだ後、主任が真夜に指導係が風花であることを説明してくれた。
一瞬、真夜の顔が強張った。だが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「よろしくね!」
顔は笑顔だが、目が笑っていない。これは早々に嚙みついてきそうだ。風花は事務的に「よろしくお願いします」と返事をするだけに留めた。
午前中は真夜を連れて一緒に患者の検温や処置に回った。真夜は患者一人一人に大げさなほど「早く良くなれるように、精一杯お手伝いさせてくださいね」と言いながら自分の存在を植え付けている。喜んでいる患者もいるが、困惑している患者もいた。
病棟を出て二人になった後、風花は真夜に過剰なコミュニケーションは控えるよう注意した。病院での主役は看護師ではなく患者だ。看護師は陰日向となり、病を回復するための役に徹することが基本だと言うと、真夜は不愉快そうに無言で立ち去っていってしまった。
さらに休憩室で他の看護師たちと揃って昼休憩をとっていた時、真夜は看護師から片瀬とのことを聞かれ、待ってましたとばかりにとんでもないことを言いだした。
「本当はまだ、颯太からは別れたくないって言われてるんだよね。私も颯太のこと好きだから、今でも自分の決断が正しいのか迷ってる。颯太と私はお互い運命みたいに一瞬で恋に落ちちゃったんだ。結婚したいって何度も言われて、私がいなきゃ生きていけないとまで言われて、結婚してあげたって感じ。だけど、私がただの看護師なばっかりに颯太のご両親にいじめられて……。ちょっと心が疲れちゃったの。だから、距離をおくことにしたの。弱い私が悪いんだ」
そう一気に言い終えると目じりを指で拭う。「かわいそうだね」「医者の親って、変にプライド高いもんね」と周囲で慰める声が聞こえた。
「本当かな」
風花が呟く。一同が風花に注目した。もちろん、真夜もだ。
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