317人が本棚に入れています
本棚に追加
「たとえそれが本当だとしても、好きな人のご両親を悪く言うような発言は控えたほうがいいと思う。自分を良く見せるために他人を落とすようなマネ、私は好きじゃない。それと、ただの看護師って言い方もやめてもらえる? 私たちはプロとして誇りをもって働いてるんだから」
きっぱりと言って見せると真夜は顔を赤くして唇を噛んだ。周囲も一気に空気が重くなったのに気付き、全員口を閉ざした。
「あ、そういえば風花ちゃん、看護計画の修正ありがとね」
看護師の一人がこの場の空気を変えようと別の話題を振って来た。
「やっぱりさあ、風花ちゃんの看護の視点って的確だよね」
「風花ちゃんにケアしてもらうと傷の治りが早いって患者さん喜んでたよ」
一同が風花に注目しだしたので、当然面白くなさそうに真夜は風花を睨みつけた。おそらくその形相は風花しか気づいていないだろう。
しばらく真夜とのバトルは続きそうだ。面倒だなと思いつつ、よく愛奈は一人で耐えたなと、あの子の痛みを再確認して悔やんだ。
◇
真夜が皮膚科病棟で働くようになって四日が経過した。
「蒼井ちゃん」
廊下を歩いていた際、やけに馴れ馴れしく呼ばれて風花は立ち止まる。すぐに後ろから自分を追い抜き、立ち止まってこちらを振り返って来た男には見覚えがあった。
放射線技師の折原という男だ。
出会った当初からなぜか気に入られ、声をかけてくる。軟派な男は好きではないが、悪気はなさそうなのでたまに話をすることがあった。もちろん杵島と付き合っていることを伝えてあるので、さすがに大きな一歩は踏み込んでこない。
「聞いたよ。あの新部真夜にガツンと言ってやってるんだって? さすが蒼井ちゃんだなあ。俺、ますます惚れちゃう」
最初のコメントを投稿しよう!