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どこでも真夜は有名なのか。たしかに彼女がいた整形外科病棟の看護師からも「あのプライド高い女をやり込めてくれるなんて、ホントにすごい」などと礼を言われたこともあった。
「あの新部真夜?」
「そ。俺、前からの知り合い」
「そうなんだ……」
もしかすると折原も真夜の演技に騙された犠牲者だろうか。風花がやや警戒したことに折原は直ぐに気づき、「いやいや」と大げさなまでに手を振った。
「でもすぐにアイツの本性知って必要以上に関わらないようにしてるよ。俺は、蒼井ちゃんの味方」
そう言ってキョロキョロと辺りを見回す。そして誰もいないことを確認したのか、少し距離を詰めてきた。
「実はさ、アイツまだ俺が使える駒だと思ってるみたいで、おかしな命令してきたんだ」
「命令?」
「蒼井ちゃんが片瀬先生と一緒にいる現場を押さえて、証拠を残せって。アイツ、もと旦那と蒼井ちゃんを嵌めるつもりだよ」
「……」
やはり、裏工作を企んでいたのか。
けれど残念ながら、真夜は人望を失いすぎている。そのことに気づいていないのはこちらとしてはありがたいことではある。
「蒼井ちゃんには杵島先生がいるのにな。こないだも杵島先生に『風花になれなれしく話しかけるな』って惚気られたくらいなのにさ」
惚気ではなく多分本気の牽制だ。しかしいちいち訂正するのは面倒なのでそこは無視した。
「新部さんは私と片瀬先生が親しいと思ってるのかな」
「そうなんじゃない? ずっと『あの女と寄りを戻す気だ。許さない』って言ってたもん。蒼井ちゃん、もしかしてマジで片瀬先生とそういう仲だったの?」
「違う。私が愛したのは今の彼一人だけ」
「わあぁ。俺も蒼井ちゃんにそう言われたいよ」
折原はとても楽しそうだ。しかしこちらは人生がかかるほど重大な局面に立っている。とても笑えない。
「とにかく、アイツには気を付けたほうがいいよ。またアイツから情報引き出したら報告する。じゃあな」
折原は去って行った。
思いがけないところで味方を得た。
もしかすると折原も真夜に何か恨みがあるのだろうかと思ったが、彼が話さない限りそれを知ることはないだろう。
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