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◇
思い通りにはいかない事態に、真夜は相当苛立っていた。
二人きりになった更衣室で、真夜は突然牙をむき出しにしてきた。
「私の方が年上だってわかってんのかよ? 先輩を敬えよ」
顔が歪んで、声色も低くなっている。しかし風花は怯まなかった。
「年齢は関係ない。看護師としての実力は私の方が上。だから上司が私を指導者として指名したの」
「ずいぶんと偉くなったもんだねえ。アンタ、前は私に指導されてビクビク怯えてたじゃん。男まで取られて、超絶みじめだったよねえ」
間違いなく愛奈のことだ。
もしかすると真夜は、自分のことを愛奈だと勘違いしている?
どういうことだと風花が黙って考え込んでいると、なぜか勝ち誇ったように真夜は笑った。
「アンタ、蒼井風花なんて名乗ってるけど、本当は愛奈なんでしょう? 偽名使ってまで颯太追いかけてくるなんて、頭おかしいよね。てめえが病院かかれよ」
偽名? ますます真夜の言っている意味が分からない。
「愛奈は私の双子の姉。私は風花だけど?」
「嘘つくなよ。ちゃーんとその手の輩から聞いてるんだ。このことが病院に知れたら、大問題だよねぇ? 成りすましだもんね」
「言いたければ言えば?」
風花が堂々と言葉を返すと真夜はグっとさらに顔を歪めた。もうとても見ていられない、般若のような形相だ。
「颯太と寄り戻せるなんて考えんなよ。絶対にまた、地獄に落としてやる」
真夜は断固として風花が愛奈と信じて疑わない姿勢を貫く気だ。
風花は反論することすら面倒になり、何も言わずに更衣室を後にした。
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