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◇
結局、風花が愛奈に成りすましているということの真相は不明なまま数日が過ぎた。
風花としては真夜のはったりだろうと思い、気には留めていない。真夜の罠に警戒しつつ与えられた仕事をきちんとこなそうと日々を送っていた。
その日、夕方から院内感染対策に関する研修会に参加した。講堂には看護師や医師、放射線技師や療法士など実に様々な職種が会していた。以前、パーティー会場で会った杵島の同僚医師が風花に声をかけてきた。かと思えば、折原もやってきて馴れ馴れしくちょっかいをかけてくる。適当にあしらっていると後からやって来た杵島がすぐにこの状況に気づき慌てて彼らを引き離してくれたのでホッとなる。その時、背後から鋭い視線を感じて振り向くと、真夜が悔しそうな眼差しをこちらへ向けていた。自分以外の女性がちやほやされるのがよほど悔しいらしい。自分に自信がないのだなと思ったが無視して杵島の隣に並んで座った。
「おっかねえなアイツ。もう本性隠しきれてねえじゃん」
杵島も真夜の視線に気づいていたらしく、風花に耳打ちした。
「余裕ないんでしょ」
もう後がない。真夜は追い詰められているのだとわかる。
定刻通りに研修会が始まり滞りなく終了した。講堂から次々と職員が退室していく。風花も集団の一部に紛れ、廊下へ出る。
下へ降りるため前方のエレベーターを見たが、他の職員が大勢待機していた。エレベーターは4台稼働しているが、職員が占領していては患者や家族が使用したい場合に支障をきたすため風花は階段を使い病棟へ戻ることにした。
風花が階段に立った時、自分の横にさっと真夜が現れた。
「お疲れ様ぁ」
やけに笑顔だなと思った時、真夜は風花へと手を伸ばしてきた。
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