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まさか、突き落とされる?――そう身構えた瞬間、真夜は「きゃああ!」と悲鳴をあげて自らよろけ、階段から転落していった。止める間もなかった。
「新部さん?!」
風花が慌てて駆け下りる。近くにいた職員たちが一斉に集まって来た。
「うぅ……」
真夜は全身を強打したらしく、自分自身を抱きしめるようにうずくまっている。そしてかけ寄ってきた職員にむかって縋るように言った。
「蒼井さんに死ねって言って突き落とされた……! ごめんなさい。ごめんなさい蒼井さん! 私が気に入らないなら、いくらでも謝るからもうひどいことするのはやめて!」
その言葉を聞いた職員たちが疑惑の目を風花に向けた。だが風花はそんな視線を気にかけているヒマはない。真夜の無事を確認することが第一だ。
「早くストレッチャーを持ってきて! バイタルセット、それからCT室の手配をお願い!」
緊迫した声で風花が叫ぶと、一部の職員がすぐに動き出した。
杵島もかけつけ、真夜の意識と怪我の程度を確認する。
周囲はかなり混乱していた。「え、突き落とされたの?」「あの人に?」「あんなに怯えてかわいそう」などという声が聞こえてくる。
真夜がストレッチャーに乗せられ運ばれていく。その間も真夜は涙を流しながら、「蒼井さん、もういじめないで。颯太があなたじゃなくて私を選んでくれたのは、あなたの本性に気づいたからだよ……?」とうわ言のように繰り返していた。
「……すげえ女だな」
風花の横に折原が立つ。彼は手にスマートフォンを持っていて、風花に向かって画面を差し向けた。
そこには、風花に突き落とされて階段を落ちていく真夜ではなく、真夜自ら落ちていく動画がしっかりと収められていた。
「一大事に何悠長なことやってるの」
風花が折原をたしなめると彼は肩を竦めた。
「大丈夫だよ。自作自演なんだから。怪我しない程度に加減することはわきまえてるだろ」
風花が真夜を突き落としたという疑惑は、早々に晴れるだろう。
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