第四章「蒼井風花の復讐」-5-

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 まさか、突き落とされる?――そう身構えた瞬間、真夜は「きゃああ!」と悲鳴をあげて自らよろけ、階段から転落していった。止める間もなかった。 「新部さん?!」  風花が慌てて駆け下りる。近くにいた職員たちが一斉に集まって来た。 「うぅ……」  真夜は全身を強打したらしく、自分自身を抱きしめるようにうずくまっている。そしてかけ寄ってきた職員にむかって縋るように言った。 「蒼井さんに死ねって言って突き落とされた……! ごめんなさい。ごめんなさい蒼井さん! 私が気に入らないなら、いくらでも謝るからもうひどいことするのはやめて!」  その言葉を聞いた職員たちが疑惑の目を風花に向けた。だが風花はそんな視線を気にかけているヒマはない。真夜の無事を確認することが第一だ。 「早くストレッチャーを持ってきて! バイタルセット、それからCT室の手配をお願い!」  緊迫した声で風花が叫ぶと、一部の職員がすぐに動き出した。  杵島もかけつけ、真夜の意識と怪我の程度を確認する。  周囲はかなり混乱していた。「え、突き落とされたの?」「あの人に?」「あんなに怯えてかわいそう」などという声が聞こえてくる。  真夜がストレッチャーに乗せられ運ばれていく。その間も真夜は涙を流しながら、「蒼井さん、もういじめないで。颯太があなたじゃなくて私を選んでくれたのは、あなたの本性に気づいたからだよ……?」とうわ言のように繰り返していた。 「……すげえ女だな」  風花の横に折原が立つ。彼は手にスマートフォンを持っていて、風花に向かって画面を差し向けた。  そこには、風花に突き落とされて階段を落ちていく真夜ではなく、真夜自ら落ちていく動画がしっかりと収められていた。 「一大事に何悠長なことやってるの」  風花が折原をたしなめると彼は肩を竦めた。 「大丈夫だよ。自作自演なんだから。怪我しない程度に加減することはわきまえてるだろ」  風花が真夜を突き落としたという疑惑は、早々に晴れるだろう。
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