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◇
真夜が階段から転落した件を聞きつけ、片瀬が緊張した面持ちで風花のもとへやってきた。
「風花さん、大丈夫か?」
「うん。私はなんともない」
「そうか」
ホッとしたように片瀬が表情を緩める。
「新部さんのところには顔を出したの?」
検査をしたところ骨折はなかったが、肩や背中など数か所打撲していた。頭を打ったと彼女が騒いでいるので、念のため今晩は病院に入院して経過を見るらしい。
「行くわけない」
片瀬は吐き捨てるように言い、ため息をつく。
「ごめん。俺が彼女を看護師として復帰させてしまったから、きみを含め周囲に迷惑をかけてしまっている」
「颯太さんは悪くないよ」
風花が微笑んでそう言うと、片瀬は驚愕したように息を呑んでこちらを見つめてきた。
「って、愛奈なら言うと思う」
「……勘弁してくれ」
片瀬は思わず胸を押さえ、呼吸を整えるように息を吐いた。
「それはともかく、あの人は以前、自分の手は汚さず周囲を操って愛奈を追い詰めて行くことができたその成功体験に縋って、私を同じように追い詰めようとしていた。けど、その方法が通用しなくなっていることにようやく気付いたみたい。手段を選ばなくなってきている。次はきっと……」
「患者に直接手を出すかもしれない。そういうことか?」
「そう」
できれば同じ看護を志した者として、それだけはしないでほしい。
けれど、残念ながらその願いはかないそうもない。
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